2007年8月24日金曜日

SLの水族館でピアノを弾く!〜ライブ・ストリーミングの実験

引き続きセカンドライフの話題です。昨晩は、セカンドライフに参加した時からずっと懸案事項であったセカンドライフ内でのライブ演奏の実験を行ないました。前にも書きましたように、セカンドライフはデザイン、アニメーション、映像、音楽、プログラミングといった、クリエイターなら誰でも挑戦のしがいがある舞台なのですが、しかしその実、音楽についてはいろいろと制限も多いのです。それは、セカンドライフでは1つのSIM(地域)で起る全てのことを1つのコンピュータが全部処理しているということに加え、音楽や映像の処理が重たいということと関係しているのでしょう。

音楽について言えば、例えば、ピアノを弾いて音を出す、ということを考えてみましょう。この時はピアノに、操作すると読み込んである音を出すスクリプト(プログラムのようなものです)を仕込んでおくことになるのですが、その読み込める音というのがWAVという形式のファイルで10秒までという制限があるのです。しかもその10秒のファイルをセカンドライフ内に持ち込むのに10リンデン・ドルの費用がかかります。10秒というと、これはもう、効果音の世界ですね。普通の曲なら4〜5分はかかるでしょう。そこで、ピアノでまとまった音楽を流すようにするには、曲を10秒毎に分割したファイルを作っておいて、これらのファイルをセカンドライフ内にアップロードし、スクリプトで順々に音を出すように設定する必要があります。この方法だと1曲にかかる手間は大変なものですし、費用も240〜300ドルかかることになります。無料で服から家まで手に入るようなセカンドライフの世界で300ドルと言ったら、結構いいものがいろいろ買える金額です。しかも、これだけ手間と費用をかけて、セカンドライフ自体の動きが重くなると、分割されたファイルはうまく連続して再生されず、ブツ切れになったりします。これは音楽ではありません。

そこでストリーミングという方法があります。ストリーミングはオン・デマンド方式とライブ方式に分れるのですが、まずはオン・デマンド方式。これは、その土地(敷地)のプロパティに、その土地で流す音楽ファイル(mp3)が置いてあるサーバのURLを記述しておくのです。すると、その土地を訪れた時に、自動的にメディア・プレイヤーのボタンが画面に現われ、音楽が流れるというものです。これだと、普通に音楽が流れ、途切れることもないので気持ちがいいのですが、一つだけ難点があります。それは、その音楽の再生が、それぞれのアバターの設定によって異なるということです。例えば、私などは「編集」メニューの「環境設定」の「オーディオ&ビデオ」で、音楽が再生可能な場所では再生するような設定にしてあるので——これは時々メッセージが出て確認されることもあります——、そういう土地に行くと自動的に音楽が始まりますが、そういう設定になっていないと、いちいちプレイボタンを押さないと音楽は始まりません。そして、音楽はそのアバターがその土地に入った時から、またはプレイボタンが押された時から始まるので、同じ土地にいるからと言って、同じものを聴いているわけではないのです。曲は同じですが、その曲のどの部分を聴いているかは、時間差が出てくるということです。

つまり、同時に同じものを聴こうと思ったら曲がブツブツ切れてしまうかもしれず、曲を気持ちよく聴こうと思ったら、今度は一緒にいるのにリアルタイムで同じ経験ができないというジレンマがあるのです。

そこで出てくるのがライブ・ストリーミングです。これは、ストリーミング・サーバというものを経由して、そのサーバのURLを先程と同じように土地のプロパティに設定しておけば、リアルタイムで音が流れてくるというもので、セカンドライフでのライブイベントなどではこの方法がとられています。但し、この場合は、楽器やマイクの音を取り込んで、その音をストリーミング・サーバにアップロードするものと、セカンドライフ内で自分のアバターを操作するものの、2台のパソコンが必要になります。当然、いい通信状態を確保するならインターネット回線も2つ要ることになります。

さて、ビンボーな環境の中でこれらの問題をどうクリアするか。幸いパソコンは本格稼働しているものが2台あり、一つはセカンドライフを走らせているMac OS Xのもの、もう一つはOS 9.1のものです。必然的に9.1のMacで楽器の音を取り込み、サーバにアップすることになりましたが、このアップするためのソフトというのが大変でした。サーバはセカンドライフで使った人もいるというライブドアのねとらじで試すことにしたのですが、ねとらじで実績があり、OS9.1で使えるソフトとなるとMac Ampというソフトくらいしかないのですが、これがオフィシャル・サイトはクローズしていて入手困難というものなのです。が、執念であるサイトを見つけダウンロードしました。となると、あとは回線の問題。これまで導入していなかったのが不思議なくらいですが、ブロードバンド・ルータを買ってきて2台のパソコンを接続し、OS 9.1でアップした音をOS X側のパソコンで聴くことができました。とりあえずはねとらじを使ってのストリーミングの実験自体は終了。となれば、いよいよセカンドライフ内でうまくいくかどうかです。

というわけで、技術的な前置きがかなり長くなりましたけれども、前回ご紹介しました pira Noel さんが Hakata のお店の隣の部屋にピアノを持っているので彼女に連絡します。「今からライブの実験やりたいのですが……。」「いいですよ〜。」ここで考えたのです。ただあの部屋でピアノ弾いてもおもしろくないよねぇ。きっと彼女はまた写真撮ってくれるだろうから、だったら絵になるようにしたいねぇ。そう思って彼女に言ったのは、「お手数ですけど、ピアノをHakataからKaruizawaの水族館に持ってきてもらえませんか?」そうです! 海の底にピアノを沈めてそこで弾こうというのです。海の底でタキシード着てピアノ弾くなんて、これはもう仮想世界ならではなんではないでしょうか。で、折角なので pira Noel さんをご紹介下さった kyoko Infinity さん——そう、ネット音楽雑誌・月刊「DAICHI-大地-」でもおなじみのあのKyokoさんです——にも連絡します。「行く行く!」と文字通りの二つ返事。というわけで、3人Karuizawaの水族館に集まったところで、リアルの世界にいる私が演奏を始めます。実際の演奏より15秒ほど遅れてセカンドライフ内で音が鳴り始めました。

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海底でピアノ演奏中のHiroshi Kumaki


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pira Noelさんの後ろ姿(水着だ!)
——中央上の方にはイルカと戯れる kyoko Infinity さんの姿も


演奏が終ってから聴いてみたら、2人とも聞こえていたとのこと。同時に経験できたようです。私のADSL回線も、音楽データのアップとセカンドライフを走らせるのを難なく同時に処理してくれました。いや、アップに使った古いOS 9.1のマシンもよく頑張ってくれました。

それにしても、とっさの思いつきとは言え、海底での演奏会というのはなかなか美しく素晴らしいものでした。ミュージカル出身の kyoko Infinity さんも踊りたくてたまらないご様子。最近、ある席で、もしかしたら気が違ってるんじゃないかと思うようなことがひらめくかもしれないけど、そのひらめきを自分で抑えたり否定したりしないで、メモして実現するかやってみなさいという話が出たことがあったのですが、皆それを思い出し、「ピアノを海の底に沈めて弾くなんて気が違ってるよね。」「しかも博多にあるピアノを今すぐ軽井沢に持って来いだなんて。」と大笑いしました。こういうことが簡単にできてしまう仮想世界だからこそ、新しい可能性が生まれてくるのかもしれないと。

というわけで、今回の実験の結果に満足した私たちは、ここで実際に人を集めて演奏会を開くことにしました。いろいろと準備がありますので、秋になってからのことになるとは思いますが、その時はまたこのブログ等を通じてお知らせしますのでどうぞよろしくお願いします。

長くなりました。今日はこの辺で。


P.S. 今晩は定期メインテナンスのため、日本時間で8月23日(木)午前0時〜3時の間はセカンドライフに接続できなくなっています。詳しくはリンデン・ラボ社のオフィシャル・ブログをご覧下さい。




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