2007年10月31日水曜日

セカンドライフでライブ演奏するということ

さて、先日セカンドライフでのコンサートが無事終ったことをお伝えしましたが、セカンドライフで音楽をやるというのはまだまだ難しいですね。今日は先日の舞台裏を中心に、技術的なことを話していきたいと思います。

セカンドライフで常に考えておかなければいけないのは、そこで見たり聞いたりしていることがサーバ側で、つまりセカンドライフの世界で起っているのか、それともクライアント側、つまりセカンドライフに接続している自分のパソコンの中だけで起っているのか、ということです。何のことかわからないという方もいらっしゃるでしょうが、要するに、セカンドライフ内で自分が見たり聞いたりしているものを、周りにいる他の人が同じものを見たり聞けたりしているとは限らない、ということです。一番わかりやすいのは、「世界」メニューにある「太陽を調整」というコマンドですが、あれを使うと、自分の好きな時間帯の風景に変更できますね。夜とか昼とか日の出とか……。あれは自分だけ風景が変わっているだけで、周りの人の時間は何も変わっていないわけです。

実は、セカンドライフ内の音楽といった場合にも、このことが重要になってきます。よく、ピアノや楽譜やレコードから音楽が出てくる、というのがあります。あれは、そのピアノや楽譜やレコードにサウンドファイルを添付することになるわけで、この方法だと、その場にいる人は同時に同じ音楽を聴くことができます。が、この方法には制限があり、ファイルはWAV形式で10秒までと決まっているのです。10秒! そんな音楽なんかあるはずはありません。そこで、この方法で音楽を聴いてもらうには、WAV形式の音楽ファイルを10秒ごとに分割した上で、それを連続的に鳴らすようにスクリプトを組むのです。分割の仕方、スクリプトの組み方にもよりますが、しかし、当然、性能のいいパソコンでないと処理に時間がかかり、音がブツブツに途切れてしまいます。これが本当に不快で、私などは音楽を聴いて却ってフラストレーションが溜まってしまいます。そう、これでは音楽とは言えません。

もう一つの方法はセカンドライフ外の、インターネットサーバなどにmp3ファイルを置いておき、そのURLを自分の敷地(parcel)の音楽URLに設定しておくというものです。この方法ですと、mp3音質でどんなに長い音楽でもたっぷり楽しめます。よくある土地に入ると音楽が流れてくることがありますが、それはこの方法を使っているものです。ただ、この方法は、その人がその土地に入ったり、プレイボタンを押した時に開始するので、当然、聴く人によってどこを演奏しているかは異なります。同時には経験できないのです。

やっぱり音楽はみんな一緒に聴いて、みんな一緒に盛り上がりたい! ここで登場するのがライブストリーミングという方法です。演奏や歌の出力をパソコンを通じてネットラジオなどのストリーミングサーバにアップリンクし、そのサーバのURLを先程の土地のURLに設定しておくのです。サーバに置いてあるmp3を再生する場合と異なり、ストリーミングの場合はその土地にいる人は同時にストリーミングされてくる音楽を聴くことができるのです。

今回の場合は3台のマッキントッシュを使い、1台が伴奏となるシンセサイザー群をコントロール、ボタン1つで次に演奏する曲をいつでもスタートできるようにしておきます。そして、そのシンセサイザーから出力される音を2台目がストリーミングサーバにアップリンク、最後の1台がセカンドライフに接続し、これでHiroshi Kumaki君のアバターを動かしました。これがなかなかバタバタで、楽器の方のミキシングは事前に自動でどんどん変更するようにしてあったにも拘らず、ちょっとしたミスでリハーサルの時とは違うバランスになってたり、音が出なかったり——気づいた人は気づいたかな?A(^_^; ——しますし、やっぱりアバターは動かないとおもしろくないので、(セカンドライフ内の)2台のシンセを弾きわけたり、シンセからピアノに移ったり、ギターを取り出して弾いたりと、これはこれで大忙しでした。ひと月前のバーニングライフで、演奏はいいのに、アバターが全然動かなかったり、ひどいのはAFK (Away From Keyboard=席を外していてアバターの操作ができません、ということ)になってたりしたミュージシャンもいて、これはよろしくない、と思ったことがあるからです。やっぱりライブは、特にロックは、音は勿論大事ですが、ビジュアルも大事です。

この辺りの方針は最初から決まっていましたが、一番迷ったのがMC(トーク)をどうするかです。やっぱりライブのいいところは聴衆とダイレクトに交流できることですから、その時その時の生の喋りは必要と考えました。この時、音の質としては、つまり空気感としては、勿論楽器群と共にマイクの声をミキサーに入れて、一緒にストリーミングするのが一番いいと思うのですが、実は、ミキサーからアップリンク用のパソコンを通ってストリーミングサーバを経由し、セカンドライフ内に音が流れてくるまで、回線の状況によって10〜15秒の時間差があるのです。15秒! 会話のレスポンスとしては遅すぎます。

となれば、あとはそのままチャットでやるか、ボイスチャットを使うかになります。チャットは、変換がもどかしい。その意味では15秒遅れるストリーミングの音と変わらない。それに、やっぱり声で交流する魅力は、バーニングライフや前に見たシロタンのコンサートでよくわかっている。やはりボイスチャットだ。やったことはなかったので、一度リハーサルをしてみたら、アバターの動きと声との差は1秒程度だという。1秒、これなら使える。というわけで声はボイスチャットを使用して、その場の聴衆の反応に合わせて会話することにしました。

ただ、ボイスチャットを使うのが面倒なのは、聴く人にボイスチャットの機能をオンにしてもらわなければいけないところですね。ボイスチャットの設定やボリュームと、その土地の音楽のプレイボタンやボリュームが別々なので、このあたりをきちんと設定してもらうことが鍵になります。更にはパソコン自体のボリュームというのもありますから……。音楽は聞こえるけど声は聞こえないとか、或いは全然聞こえない、ということにすらなってしまいます。

ここまで書いてくれば大体想像つくでしょうが、音楽の再生、ボイスチャットの機能、アバターや楽器、それから照明を動かすスクリプトやアニメーションの多用と、セカンドライフの機能をフルに使うことになります。そこに30人からの人が集まるわけですから、これはもう、その土地自体はもちろん、SIM全体にも大変な負荷がかかります。悲しいことにコンサート後、pira Noel さんの水族館の鯨がうまく動かなくなってしまったと聞きました。影響が大きいのですね。それだからでしょう。セカンドライフの公式イベントであるバーニングライフのステージは4つのSIMが交差するポイントに設置されていて、200人までの観客に耐えられるようになっていました。が、それでも、バーニングライフのメイン・イベントであるバーニング・マンでは、4つのSIMのうちの一つが落ちてしまいました。そんなこともあって、音楽専用のステージを次回は用意する必要があるかな、と感じています。

このように、セカンドライフで音楽をやるということは、いろいろと考えなければならないことがあるのです。それは、ある意味、現実の世界で音楽をやることよりも面倒かもしれません。が、それだけにまた、いろいろと工夫をし、何より自分がやりたいように自らプロデュースできるという意味で、楽しいことでもあるのです。大体、水族館の中でコンサートをやるなんてこと自体、現実では無理ではないですか。今回のステージは私が思っていた以上に評判がよく、次を楽しみにしているという声も聞こえてきます。

この声に応えて、更に素晴らしいステージをお届けしたいと、次に向けて動き始めています。またの機会をお楽しみに。




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