2020年7月11日土曜日

リンデンが身売り?〜どうなるセカンドライフ!?

7月10日の昨日は早朝からとんでもないニュースが入ってきて
僕の仲間の間でも、一体これはどういうことだ?
SL は大丈夫か!? と衝撃が走りました。
そのニュースとはリンデン自身による次のプレスリリースです。

LINDEN RESEARCH, INC. TO BE ACQUIRED

即ち、

「リンデン・リサーチは投資グループに売却予定
 〜セカンドライフとティリアの地平に新たな成長と拡大の機会」

というものです。
リンデンはこれまでいろんな会社を「買収」して
傘下に収めて来たのですが、「売却」はこれが初めて。
で、売却というとネガティブなイメージがつきまとうのですが、
「新たな成長と拡大」って楽観的な表現が同時に見られるので
一体これってどういうこと? って思っちゃいますよね。

私の見立てでは、短期的にはリンデンの活動はこれから拡大し、
この売却によるセカンドライフへの影響は殆どないか
よい方向へ転換すると思われる。
但し、中長期的に見ると、これから2、3年の間に
その拡大路線によって業績の向上が見られない場合、
更に他の投資会社やファンドに売却されるか、
最悪廃業に追い込まれることになる、というところでしょうか。

ちょっと長くなりますが、ここから経営的な話をします。

事業というものは、基本的には、立ち上げたからには
永続的にサービスを提供し続けることを期待されています。
起業するということは人に付加価値を与える、
即ち、人を幸せにすることに貢献することであり、
ひとたび与えた価値や幸せを奪うことは許されません。
それだけに、日本でも会社を興すのは簡単ですが、
止めるとなるとえらく手続が大変になっています。
暗号通貨の ICO が多くの場合詐欺だと言われるのは、
ICO したあと、その暗号通貨を使って
どんな豊かな世界が、経験が投資した人たちを待っているのか
先のビジョンがないからだと私は考えています。

しかし、事業を永久的に続けていくには、
当然利益というものを出し続けて行かなければなりません。
企業の第一の目的が利益の追求であることがしばしば批判されますが、
それは世界の人々にサービスを提供し続けるためには
絶対的に必要なことなのです。
私が音楽制作の世界に入ったのは、かつて「Vision」という
とても素晴らしいソフトがあり、とても使い易く
画面表示も競合の「Peformer」などに比べると楽しい感じで
このソフトを使って音楽を創ることが楽しかったからです。
「Mac で Vision を使って音楽を創る」というのは
とてもストレスフリーな制作環境であったと言えます。
それは、創設者のデイヴ・オッペンハイムという人が
とてもクリエイティブな技術者であったからだと思いますが、
どうもこの方、経営の方のセンスはイマイチだったようで。。。
結局はこの「Vision」をリリースしているオプコードという会社が
経営に行き詰まってギターで有名なギブソンに買収されたものの
そのギブソン自体がオプコード製品の開発中止を決定、
この世から消えてしまった、という苦い経験があります。
オプコードという会社のことはご存じない方も多いでしょうが、
この会社が開発したものは、例えば MIDI インターフェースの
OMS をアップルが買い、それが現在の AudioCore となっていたり、
Max/MSP は Cycling '74 が引き継いで、
Ableton Live に組み込まれたりしていて、
その遺産は今にも生きているという伝説的な会社なのです。

つい思い入れが入りすぎて長くなってしまいましたが、
どんなに素晴らしい事業・サービスでも
利益を出せなければ消えてしまう、ということの具体例として
掲げさせて戴いた次第です。

では、セカンドライフ、リンデン・ラボはどうなのか?

リンデンラボは2004年に800万ドル、
2006年に1,100万ドルの増資を行っています。
この時に出資している法人個人は次の6人ですが、
そのうち2つの会社から役員を受け入れています。

・Benchmark
・Omidyar Network
・Globespan Capital Partners
・Catamount Ventures
・Mitchell Kapor
・Jeff Bezos

このうち、Jeff Bezos さんは皆さんご存じ Amazon の方、
Mitchell Kapor さんはあの1-2-3 や Notes で有名な
ロータスの創設者で Mozilla にも関わっていらっしゃる方ですね。
現リンデンラボの役員をしているのは、
Benchmark のBill Gurley と Catamount の Jed Smith です。

最近、リンデンは VR 環境「Sansar」事業を売却したり、
従業員の30%削減を発表したりしましたが、
このことは即ち、これらの投資家がリンデンの業績に満足していない
ということを意味しているのではないでしょうか。
同時に、新しい投資会社がリンデンの購入を決めたということは、
この2つの条件さえクリアされれば、業績の改善に止まらず、
今バーチャルとかリモートとかいう環境が見直されている時期に
更なる業績・業容の拡大が見込める、と判断したからだと考えます。

とすれば、Sansar の売却や人員整理の裏には、
今回新しい投資会社が現在の投資家たちの持つ権利を
彼らが満足するような価額で買い取って、役員からも退いてもらい、
自分たちが経営権を握る、という動きになるのかなと思っています。
私自身は、投資会社による買収は、同業他社による買収よりも
買われる側にとっては有利なのではないかと考えています。
というのは、同業他社による買収の場合は、
競合製品の技術などを手に入れたら、そのあとはその製品を
自社ブランドの製品に統合という名目で廃止するのが常ですが、
投資会社は儲かる限り持ってるけど儲からなくなったら売るだけ、
だからです。
尤も、経営的な観点からどんどん口出しして来ますので、
社長がすげ替えられたり、事業の整理などもあるにはあると思います。

ただ。。。

今回の発表、リンデンの一方的な発表なんですよね。
リンデンを買う予定の Waterfield Group も Jyve も、
これに関する発表はこれまでのところ一切していないのです。
リンデンもこの売却の契約は一定の条件付で
「ティリアが送金事業者として金融当局から認可されるのを待って」
となっているので、これにどれだけ時間がかかるか次第ですね。
ティリアについてはご存じの方もいらっしゃると思いますが、
詳しくは次のリンデンのブログを見て頂くこととして。。。

Tilia Pay to Power USD Transactions in Second Life Beginning May 26

これは、リンデンが展開するマネー・サービス・ビジネスで
セカンドライフだけでなく、一般に開放された事業です。
セカンドライフの資産を持ち出す場合、また持ち込む場合に
米ドルでの決済が発生しますが、
その際、経済制裁やマネーローンダリングを検知するしくみを
システム的に対応する必要があります。
仮想世界や暗号通貨の決済に当たってこれを実現したのが
ティリアというわけです。
そして、そのような事業は連邦政府や州政府の金融当局の
許可を受ける必要があるわけです。
ティリアのサービス自体は上のブログにあるように
既にスタートしていて我々も知らずにそれを使っているのですが、
事業に対する許可自体はまだ下りていない、ということなのでしょう。
(日本で、暗号通貨の事業者がいっぱい現れたけれど、
 許可が下りずに廃業したところがいくつもあることを思い出します。)

というわけで、かなり長くなりましたが、
このティリアの事業が認可されるかどうかが鍵を握っているものの、
認可されれば契約が一気に進み、一挙に拡大路線に打って出る、
そんな展開かな、と考えています。
尤も、まだ不確定な要因がある状態で今回の発表をしたのは、
Sansar 売却や人員整理に対するネガティブなイメージを払拭し、
コロナ対応で新しい事業がどんどん生まれて来ている中で
これから新しい展開があることを世界に向けて宣言する必要が
あったからだろうと想像しています。
プレスリリースにエブ社長が書いているように
新たな契約によってセカンドライフがますます発展することを
期待したいと思います。

No response to “リンデンが身売り?〜どうなるセカンドライフ!?”

Leave a Reply