2021年11月14日日曜日

【翻訳記事】 エノク書〜その1(第六章〜第九章)

 先日聖書の通読を終えた話を書いたけれども、
これは所謂プロテスタントで「正典」とされているものだけで、
新共同訳の聖書では「続編」として収められている
カトリックでは正典扱いのものは含まれてはいません。

プロテスタントで正典とされているもの以外は
通常外典と呼ばれることが多いのですが、
この外典には魅力的なものが多く、
例えば続編に含まれる「ユディト記」の主人公ユディトの物語は
音楽ではヴィヴァルディやモーツァルトも作曲してますし、
絵画ではボッティチェリやカラバッジョ、ゴヤが取り上げ、
多分皆さんが絶対に見たことあると思われる有名なのは

こうして、正典とは認められていなくてもヨーロッパの歴史を通じて
人の心に深く残り影響を与え続けてきた外典の物語は多数ありますが、
その中でも有名なのが「エノク書」です。
これはエヴァンゲリオンで有名になった死海文書の中に
アラム語によるその断片が含まれ、
元はアラム語かヘブライ語だったらしいのですが、
現在残されている者はエチオピア語による訳ということです。
この「エノク書」には「創世記」にたった6行しか触れられていない、
「エノクは神と共に歩み、神が取られたのでいなくなった」
と書かれたエノクが体験した話が108章にわたって綴られているもの。
その中には、200人の天使が地上に降りて来て
人間の女性と交わり巨人を生んだ話など、
聖書でさらっと触れられているだけの話が事細かく書かれています。
このエノク書に手軽に触れることができるものとして


がありますが、何とここではその面白い部分、
第六章〜第十一章、第九十四章以下が割愛されているのです。
訳者によるとエノクと関係のない、寧ろノアの物語のため、
ということですが、そう言えばアマゾン・プライムで見られる
2014年の映画「ノア 約束の方舟」は、
このエノク書を元にした表現がたくさん取り入れられていて
大変おもしろかったです。

さて、その割愛されているノアに関する物語の部分、
ネット上でエチオピア語を英語に初めて翻訳した方の
テキストを見つけることができましたので、
自分の備忘も含めて日本語(文語)にしたものを掲げておきます。
ちょっと長いので3回くらいに分ける予定です。
尚、元の英語は次のリンク先を参照して下さい。


     *   *   *

エノク書
〜エチオピア語版に基づく英語版からの重訳〜

   第六章

1. 人の子等繁衍(ふえ)はじまりて美しく見目佳き女子(おんなのこ)之に生るるに及べる時、2. 天の子なる天使等女子(むすめ)等を見て之を欲し、互いに言ひて曰く、「皆来たれ、人の子らの中より妻を娶り子を成さん」と。3. 此処に指導者なるセミアザ彼等に言ひて曰く、「汝等この事を為すに、誠に裏切りはしまいか、我一人大いなる罪の責めを負はねばなりはしまゐかと恐るるなり」4. 天の子等答へて曰く、「されば皆共に誓ひを立てん。この計画を必ず実行し、放棄することのなきやう、互ひに呪いをかけん。」5. かく天の子等互ひに誓ひて、計画に対する呪ひを互いにかけ合へり。6. その数総勢200に及び、ヘルモン山の頂上なるヤレドの地に降(くだ)りき。この山をヘルモン、即ち「聖なる地」と呼べるは互ひに呪ひをかけ合へるによるなり。7. この者等の指導者等、セミアザを首(はじめ)とし、アラキバ、ロメエル、コカビエル、トミエル、ロミエル、ドネル、エゼケエル、バラキヤル、アザエル、アルモロス、ボトレル、アノネル、ゾキエル、サムソペエル、サタレル、トゥレル、ヨミアエル、サリエルなり。此等は十人隊長なり。

   第七章

1. 斯(かく)て此(この)者等と共にありし他の者等も皆妻を娶り、即ちその好む所の者を取りて女の所に入り、之(これ)によりて身をを汚し、呪いや魔法を教へ、木の根を切りて女に植物を教ふ。 2. かの女子達子を孕み、巨人を生めり。この巨人等は身の丈三千米もある者達なり。 3. 巨人、人が得たもの皆食ひ尽くし、人最早これを養ふこと能はずなりぬれば、 4. 巨人、人に向かひて之を食らふ。5. 更に鳥に対し、獣に対し、爬虫類に対し、魚に対して罪を犯し、遂には互ひの肉を食み、その血を飲めり。 6. 是(ここ)に於(おい)て大地は無法の輩を天に訴ふるなり。

   第八章

1. アザゼル人に剣、小刀、盾、胸当ての作り方を教へ、又地に金属なるものあるを教へ、その鍛へ方や腕輪、装飾品等を教へたり。顔料の使ひ方、瞼を彩る方法を教へ、あらゆる種類の高価な石や染料を教へたり。 2. 地には不道徳が蔓延(はびこ)り、姦淫を犯す者現れ、此者等皆堕落し、自ら破滅せり。 3. セミアザは呪術と木の根を切ることを教へ、アルモロスは呪文の解き方を、バラキヤルは占星術を、コカビエルは星座を、エゼケエルは雲の知識を、(アラキエルは大地の兆を、シャムシエルは日輪の兆を、)サリエルは月の運びを教ふ。人滅ぶに当たりて大いに嘆き、その嘆きは天に達せり……。(以下不明)

   第九章

1. 是(ここ)にミカエル、ウリエル、ラファエル、ガブリエルは天より見下ろして地上に血が流されしこと大いなること、無法が地上に溢れしことを見き。 2. 即ち互ひに言ひけるは、「人の居なくなりし大地が嘆きの声を上げ、彼の嘆きは天の門にまで達するなり。 3. (今、諸君等天に坐(ましま)す聖なる者に対し)人の魂が裁きを求めて曰く、『我らの訴へを至高の者に届け給へ。』と。」 4. 四人は永遠の時の主に対して曰く、「主の中の主、神々の中の神、王の中の王(、永遠の時の神)よ、その栄光の座があらゆる時代の全ての世代にわたりて揺るぎなく、その御名があらゆる時代にわたりて聖にして栄光に満ち、祝福され給はんことを!  5. 主はあらゆる物を創り、それら全ての物に対する力を持つ者なり。主の御目(みめ)にはあらゆる物が晒され、一切が明らかなれば、主はあらゆる事を見給ひ、御目より隠せる物などなきものなり。 6. アザゼルが行ひし事、主も又見給へり。彼者(かのもの)地上にあらゆる類(たぐひ)の不正を教へ、人が求めて病まぬ天なる永遠の秘密を暴きしなり。 7. 又セミアザ、主は彼に其輩(ともがら)を統率する権限を与へ給ひしが、 8. 彼其輩と共に地上なる人の女子(むすめ)の所に往(ゆき)て彼女等と交わり身を汚し、あらゆる類の罪を教ふるなり。 9. 女は巨人を産み、全地は血と不正で溢れしなり。 10. 斯(かく)て、見よ、死に絶へし者の魂が泣き叫び、天の門に訴へを起こし、その嘆きが此処(ここ)に届き止むことなきなり。何となれば、地上に於て無法の所業が今も行われてゐる所以(ゆゑん)なり。 11. 事是に至るまでの事、主も又聞こし召され、此等のことを見、不快に思ふておられるはず。件(くだん)の事、如何(いか)にすべきか我等に命じ給はざるや。」と。

     *   *   *

長くなりましたので今日はここまで。
次回に続きます。

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