2022年6月27日月曜日

【SL19B】 オーバーウルフとフィリップのインタビューに思うこと〜セカンドライフと昨今のメタバースとの違いについて(2)

 「フォートナイト」というゲームを巡って
運営のエピック・ゲームズ社がアップルを訴えたことで
アップルが iOS アプリのダウンロードに際して
30%の手数料をとっていることが広く知れ渡ることになりましたが、
こうした手数料に関連してフィリップは次のように語りました。

ブラッド(オーバーウルフの本名)は歌がとってもうまいんだ。
そこで、僕が彼のリンデンホームに歌を聴かせてもらいに行って
20ドル払うとするよね。
で、僕は歌はうまくないけど、数学なら得意だから、
別な時にブラッドが僕の家に数学を教わりに来て20ドル払うとする。
この20ドルは前に僕がブラッドに払った20ドルだよ。
で、また僕はブラッドの歌を聴きに行って20ドル払い、
数学を教えて20ドルもらう、とこれをどれだけ繰り返しても
この20ドルは僕ら2人の間でなくなることはなくて
永遠に循環し続けるわけなんだよ。

ところがもしここで10%の手数料というのがあるとどうなるだろう。
最初に僕がブラッドに20ドル払う時、
ブラッドは18ドルしか手にできないんだ。
で、次にブラッドが僕に数学を教わる時にその18ドルを払うと
僕は16ドルしか手にできないんだ。
これを繰り返していくうちに僕ら2人の間でお金がどんどん
目減りしていって最後には破産してしまうことになるわけさ。

これではモノを売っている意味がない。
だからセカンドライフでは住人同士の取引に関して
リンデンは一切手数料をとっていないのだ、
住人が自由にモノを作って、それを販売することで稼げる
そういう環境をセカンドライフは提供しているのだというのです。

実際にモノを販売している方の中には、でもマケプレでは
モノを売る度に10%取られるではないか、
という人もいらっしゃるでしょう。
確かにその通りなのですが、あの10%は commission となっていて、
即ち「委託販売の代金」という位置付けです。
販売者がマケプレを通してリンデンに販売を委託して
その成功報酬として支払っているというものに過ぎず、
インワールドの自分のお店で直接自分が売る分には
代金が100%入って来るようになっているはずです。

じゃあ、アップルの30%も委託販売の代金かというと、
アップルの場合は AppStore を経由しないで販売することが
できないようになっているため、
つまりそれを回避する手段がないというのが
セカンドライフと異なる点であり、エピック・ゲームズ社が
訴えた理由でもあるわけです。
従って、GAFAM の経済モデルとセカンドライフの経済モデルは
その点が大きく違うのであって、
昨今のメタバースはやはりユーザーからお金を搾取するために
登場してきているように思えるということでした。

次に、暗号通貨についても話が出ていました。
リンデンドルは暗号通貨なのか?
ここでもフィリップは、明確な哲学を以て語っていました。
即ち、通貨というものは、物々交換によらずに
取引を可能にする手段であり、また価値を保存できる手段である、
と定義した上で、リンデンドルは正にそうした機能を有していて
米ドルをリンデンドルにして、
そのリンデンドルをユーロで引き出すことも可能だが、
暗号通貨に関しては、毎日のように価値が変わるので、
こんなものを使って取引することも価値を保存することもできない、
と批判的でした。

リンデンドルはブロックチェーンを使っていないけれども
暗号通貨の親戚のような存在でありながら、
法定通貨と同じ要件をちゃんと満たしているという点は
やはり先見の明があったというか、
よく考え抜かれたプラットフォームだなと感じた次第です。
更にティリアに関しては、そのリンデンドルを通じて取引をする際、
米国当局の金融法制からユーザーを守るために作られたもので、
これによってユーザーは安心してリンデンドルの取引を行えるし、
これもまたプラットフォームであるので、セカンドライフに限らず、
あらゆるゲームやメタバースで利用することが可能になっており、
事実既にそうした契約先があるようです。

暗号通貨の話から当然話題は NFT に及ぶわけですが、
フィリップはこれについても、しくみは異なるけれども
基本的な発想は同じだよね、として、
セカンドライフ内でユーザーが製作するものには全て
UUID、即ち唯一無二の ID が付いていて、
製作者が誰なのかも、右クリックでプロパティを確認すれば
わかるようになっている、という説明をしていました。
従って、ブロックチェーンのような分散型システムではないもの、
NFT とは親和性があるので、そのうち誰かが NFT を
インワールドに持ち込めるようなしくみを生み出すかもしれない、
とも話していましたね。

その一方で、セカンドライフのオブジェクトは
分散型でなく、リンデンによって統一的にコントロールされている為、
盗難、著作権の侵害といった点ではよりよく対応できている、
とも話していました。
NFT は唯一無二の価値を持つものだと言いながら、
本物か偽物かの区別が付かず、また所有権の移転に当たって
著作権も移転するわけではない点が問題となっていますが、
セカンドライフの UUID はその点もクリアされている
というわけですね。

こうして見てくると、我々住人はセカンドライフの機能や
各種の手数料についていろいろと文句を言ったりしますが、
実はユーザーの自由や権利を十二分に考え抜いた上で
現在の状態となっているのだということがよくわかりました。
最近新しく出てきているものに対して
いかにセカンドライフがその先を行っていたか、
フィリップの語るままにリンデンの手先のようなことを
書いているわけですが、正直、そうだったのかぁ、と
ビジネスの観点から心から感心することが多かったのが事実です。

機能や手数料、と書いて書き漏らしたことがあることに気づきました。
フィリップは一部の人だけに利益が集中しないよう、
つまりそれによって他の人が不利益を蒙らないよう、
「プリム税」というのを導入しようとしたことがあるそうです。
つまり、同じ SIM の中でプリムをたくさん使う人がいたら
他の人が使えなくなってしまうので、
プリムの使用量に応じた税金をかけようとしたわけですが、
これには猛反対、住人の反乱が起こったのだそうで、
アメリカ建国の歴史に於いて、イギリス議会が制定した法律に
アメリカ住民が反発したボストン茶会事件さながらだったと
フィリップは語っていました。
この事件はセカンドライフの歴史の中で
2003年の出来事として刻まれており、
この年の6月23日にセカンドライフが本番稼働を始めた時、
リンデンはこのプリム税の考えを廃止してしまっていたそうです。
興味のある方は次の記事に目を通されると、
アメリカ独立戦争さながらの光景が展開していたことがわかりますよ。w


フィリップは、実はその瞬間瞬間に誰が一番リソースを使っているか
それを確認することは難しかったんだ、
単純にプリムとかスクリプトとかそういうものではなかった、
と言いつつ、但し、AWS のクラウドに移行してからは
そうしたものも計算できるように今はなっているよ、
とコメントしていましたが、流石にだからと言って
プリム税のようなものを今後導入するかについては
敢えて触れていませんでしたね。
彼にとってはとてもきつい教訓だったのでしょう。

もう一つ、機能面については、新しい機能については
常に議論し続けているとも話していました。
が、新しい機能を加えることで、今まで使えていたものが
使えなくなるということがあるんだよ、として、
だから新しい機能の追加についてはいつも慎重なのだそうです。
その意味では、これだけ先を行っているセカンドライフに於いて
一時は導入されていたヘッドマウントディスプレイ対応ですが、
これも今のところは明言できないようです。
私自身、Oculus Quest 2 とかだんだん安くなってきましたので
興味はあるものの、やはり使うとしたら SL で利用してみたいので、
早く対応してくれないかなぁ、と願っているところです。

以上、長くなりましたが、新旧経営陣お二人の対談を見た
私の感想をこの辺で終えることに致します。
繰り返しになりますが、セカンドライフは、
メタバースとはユーザーを中心にして
このようにあるべきだ、というフィリップの理念を核にして
生み出されているものであるということを
技術的にも経済的にもあらゆる側面で感じ取ることができる
ということです。
そして、そのフィリップが顧問としてリンデンの経営に
再び関わるようになったということは住民の我々にとっても
喜ばしいことなのではないでしょうか。
このところインワールドではレアキャラ化しているヒロシですが、
もうちょっとインする機会を増やしていろいろ試してみたいと、
セカンドライフの素晴らしさを改めて感じてみたいと
そう思った次第なのでした!

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