Twitter で香織さんがセカンドライフ内での「チップ」について
書かれていたので、そうだよなぁ、と思いながら、
随分前に書いたこともあるはずだけれど、
最近また新しくセカンドライフに入って来た人たちも
少なからずいらっしゃるようなので、
そもそもチップとは何なのか、ということを
RL での歴史を振り返りながら改めて書いておくことにしました。
RL では、アメリカに行くと今でも、ホテルの部屋の枕銭から
レストランでの会計時やタクシーの精算時にチップを支払うわけで、
これはそもそも欧米の「働き方」の歴史に関係しています。
皆さんが一番イメージしやすいと思われるのは、
アメリカの西部劇の舞台として必ず出て来る
「SALOON」という看板を掲げた酒場です。
大体ここが人の溜まり場になっていて、バーカウンターがあり、
食事のできるテーブル席があり、バーの脇にはピアノが、
そして必ず階段があって2階があり、宿泊もできるようになってます。
大体そこに数人の美女たちがウェイトレスとして存在してて、
誰かがピアノを弾いたり、或いは歌ったりしてるという風景。
そこで問題になるのは、このウェイトレスやミュージシャンは
どこから収入を得ているか、なのです。
私たち日本人の感覚からすると「お店から」でしょうが、
実は違います。
こうしたお店は、ウェイトレスやミュージシャンを
雇っているわけではなく、ただ場所を貸しているだけなのです。
場所を貸すから、一生懸命働いて、お客さんに喜んでもらって
その分お金を稼ぎな、というわけです。
だから、ミュージシャンは勿論チップだけで稼ぐわけですが、
ウェイトレスの女性たちも同じなので、
そうした女性達が複数人いる場合には当然お互いが商売敵になります。
ウェイトレス同士がいがみ合ったり喧嘩したりというのも
西部劇でよく出て来るシーンですが、当然と言えば当然の話。
これはイギリス映画でに出て来る「INN」と呼ばれる
家族経営でやってるような小さな旅館でも状況は同じです。
こうしたことは、西部劇と同じ時代、日本の江戸時代における
これまた時代劇によく出て来る居酒屋などの状況を考えると、
当時の女中たちは大体年季奉公、所謂年俸で給金を頂いていたわけで、
日本の労働習慣の方がましだったようにも思えます。
さすがに現代のアメリカのレストランやホテルでは
ちゃんとお店が従業員に給料を払っているでしょうが、
多分一生懸命働いてもらうためでしょう、
今でもチップの習慣が残っています。
なので、レストランで追加注文をしようと思って、
近くにいるボーイやウェイトレスに声をかけても、
担当のテーブルでなければ彼らは来ません。
会計・精算はテーブルで行いますが、その時のチップは
全てそのテーブルを担当したボーイやウェイトレスの手取りになる為、
自分が担当していないテーブルの接客をすると
あとでトラブルになるからです。
西部劇のサルーンのウェイトレスたちが喧嘩してたような状況が
今も残っているというわけです。
そういう意味ではウェイトレス、ボーイ、メイド、ミュージシャン、
タクシーの運転手などはそもそも誰にも雇われていない、
自分でお客さんに奉仕をしてその都度お金を稼ぐわけです。
そういう習慣のある国で「ギグワーク」「ギグエコノミー」
というしくみや言葉が生まれて来たのは当然と言えば当然です。
「gig」というのは元々は黒人のジャズ・ミュージシャンの用語です。
ミュージシャンには、例えばデューク・エリントンのように
楽団まるごとコットン・クラブというお店に抱えてもらっていた
そういう今で言う「常駐」して給料をもらっていた人もいれば、
一夜限りそのお店で演奏させてもらえる単発のミュージシャンもいて、
この人たちがその単発の仕事のことを「gig」と呼んでいたわけです。
私の SL 内でのライブについて言えば、
Burn 2 や SLB で単発出演しているのが正に「ギグ」です。
殆どのジャズ・ミュージシャンにとっては、
こうした単発の「ギグ」をあちこちで重ねることで稼いでいたわけで、
それは現代の六本木や赤坂などのジャズ・クラブでも同じです。
勿論、人気が出て来るとお店としては「またお願いします」
ということになって、定期的に出演するようになる
「regular gig」という矛盾したような表現も生まれてくるわけです。
この「ギグ」がジャズからロックの人たちも使うようになり、
今ではウーバーの運転手、ウーバーイーツの配達人のような仕事も
「ギグ」と呼ばれるようになってきたわけですが、
最近コロナ禍でウーバーイーツの配達をする人が日本でも増え、
その時に気をつけることとして、これは所謂アルバイトではない、
ということがよく言われます。
つまり、誰かに雇われてお金を貰っているわけでなく、
事業主として自己責任で働いているわけで、従って、確定申告が必要、
という話です。
ここまで長々と書いたのは、元々欧米にはこうした、
誰かに雇われているわけではない、自分の働きたい時に
働きたい仕事をする、という働き方があって、
それがチップなどの習慣につながっているわけですね。
そして、そのチップは元々はそのボーイやウェイトレスやメイドが
どれだけ自分にとって快適なサービスを提供してくれたか、
それに応じて支払うものですから、
SL のカフェやライブでも、チップを払うのは、
自分がどれだけ楽しめたかに応じてでよいのではないかと
私自身は思っています。
本当に楽しかった時はたくさん支払いますし、
つまらない時は全く払わないこともあります。^^;
最後に「カフェ」という言葉が出たので、
これも日本人にとっては誤解を招きやすい言葉なので
触れておきたいと思います。
日本人にとって「カフェ」と言われてイメージするのは
喫茶店のようなところではないでしょうか。
確かにフランス語の「café」は元々はそうだったのでしょうが、
英語で「café」はどちらかと言うと、「アルコールを出す店」
のことを言います。
ウェブスターの辞典でこの言葉を調べると
「barroom」、「cabaret」、「nightclub」と類義語であると
そのように書かれています。
つまり、英語の「café」は日本のお店で言えば、「バー」、
「(踊る場所ではない)クラブ」、「スナック」、「キャバレー」
と言った、大人の男を相手にした夜の遊び場を指すわけで、
「カフェのある場所」のレーティングが「Moderate」
(かつては「Mature」=「成人向け」)となっているのには、
そのような理由があります。
そして、こうした「夜のお店」がかつての「サルーン」のような
酒場である以上、そうしたお店がチップを要求するのも
欧米人にとっては歴史的には当然と言えば当然なわけです。
まぁ、RL では健全なレストランやダイナーでもチップを払うわけで、
日本人にとってはわけがわからない、
納得がいかないかもしれませんね。