先日、セカンドライフの TOYOTA SIM で行われたイベントの折に、DJ の kenmi Lomu さんが、即興で楽器弾けるなんてすごいとおっしゃってて、僕は僕で kenmi さんいい声してて話うまいですよねー、と、お互いこの場でホメ殺しし合ってどうするんだ、と大笑いになりましたけれども、確かに楽譜のないところで音を出す、というのは難しいことですね。即興のことをジャズで「アドリブ」ということはご存知でしょうけれど、これは "ad lib" つまり「自由に」演奏することを意味しています。しかし、自由にやれ、と言われることほど難しいものはないのも確か。私の知り合いのある女性も、譜面見てピアノを弾くことは難しくないけれど、あのアドリブというのはどうも苦手だ、どう弾いたらいいかわからない、と言ってましたね。
かく言う私も、早稲田に通う先輩からバンドに誘われてロックキーボードを始めた頃、やっぱり教本を買って来て練習するんだけれども、どんなに理論を覚えたって練習したって、フレーズなんて生まれてこなかったですね。理論という意味では必ず出て来るのが「モード理論」ですが、理論わかったところで、何でこのコードの時にこのフレーズなのか、さっぱりわからなかった。コード音じゃない音も一杯弾いてるし。それから、ロックキーボードですから、ディープ・パープルのジョン・ロードや、キース・エマーソン、イエスのリック・ウェイクマンなんかコピーしましたね。そうそう、好きだったゴダイゴのミッキー吉野や、ビートルズなんかも。でもコピーは所詮コピーでしかなくて……。この人たちはどうやってこんなカッコイイフレーズを思いつくんだろう、なんて思ってましたね。
それが、ある時から突然弾けるようになったのは、思い返してみるとバッハの曲を練習したことが大きいかな、と思います。バッハの『平均率クラヴィーア曲集』はあらゆる調性音楽を予言した、つまり今普通に聴かれる音楽の全てはそのコピーであると言ってもいいような音楽で、私は初めて聴いた時からその魅力に取り憑かれてしまい、聴くだけではあきたらず、自分で楽譜を買ってきて一音一音辿るようにして練習したのです。一見、ただスケールを上がったり下がったりしているだけのようなメロディでありながら、その何と気持ちよく、豊かなことか。ピアノを弾く本当の楽しみ、音を出すということの楽しみを本当に知ったのはバッハの一連の作品によるところが大きいのです。
そう言えば、以前「キーボードマガジン」という雑誌のインタビューでミッキー吉野さんが、あの「銀河鉄道999」のオルガン・ソロはバッハのアレンジだ、と語っていて、なるほど、と驚いたことがあります。ミッキーさんはバークレーに留学していたことで有名ですが、そこでバッハのインベンションなどをジャズ風にアレンジして弾くことが課題として出されていたのだそうです。この話を先日関根敏行さんにしたら、なるほどね、と言って、チャーリー・パーカーとかもね、当時サックスの教本なんて彼にしてみたらつまんないものばっかりだったみたいで、バッハなんかの弦楽器の教則本で練習したみたいなんだよ、という話をしてくれました。ジャズの基本は実はバッハにあるのだと。そう言えば、いかにもジャズという感じのウォーキング・ベース、あの動きはバッハのメロディそのものですね!
バッハ自身は当時から古いタイプの音楽家と思われていて、ただ、彼の即興演奏の才能は誰も否定できなかったそうです。今私たちに残されているバッハの楽譜は、その即興演奏のエッセンスが詰まっています。『平均率』も『インヴェンション』も『フランス組曲』も、ただ弾くだけでなく、即興の才能を磨く為に書かれたものなのです。そうそう、『インヴェンション』なんて文字通り「発明、創意」ということですからそのままですね。ロックやジャズで行き詰まったら、敢えてバッハに返ってみるといいですよ、きっと。
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