2023年4月24日月曜日

【RL】 管弦楽法のこと

少し前に坂本龍一さんの音楽について書いたが、
YMO の坂本さんとしてよりも、映画音楽の作曲者としての、
特に管弦楽作曲者としての彼について触れることになったと思う。
それは結局のところ自分が生まれた時から管弦楽というものに
魅了されてきたからであり、そして同時に、
自分でもああいう素晴らしい音楽を作りたいと
いつも心のどこかで思っているからだ。

しかし、ラヴェルやドビュッシーやストラヴィンスキーを
パクリながらもなかなか自分が思うようなカッコイイ音を作るのは
なかなか難しいものだ。
そこで、真面目に管弦楽法を学ぶことにしたのは以前書いた。
漸くのことで伊福部昭先生の教科書を手にに入れて
じっくり取り組み始めたのが昨年の11月くらいだったと思います。
それからちょこちょこと読み進めて
最近漸く「編入楽器」の章にに入りましたよ。^^;

「編入楽器」というのは、英語では "Extra" と言って、
要するにオーケストラで定席を占めていない楽器のことです。
つまり、オーケストラと言えば弦楽器、木管楽器、金管楽器、
そしてティンパニなどの打楽器は必ず組み込まれるわけですが、
そうでない、臨時に組み入れられる楽器を編入楽器と呼んでいて、
その最も代表的なものはピアノ、オルガン、ハープ、サックスですね。

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で、僕は、この分厚い、900ページもある伊福部先生の本で、
弦楽器、木管楽器、金管楽器まで読めば、
オケで大事なことは殆ど学べるだろうと思っていたのですが、
何と、金管楽器が終わった時点で495ページ、
半分をちょっと超えたぐらいだったのです。
ガーン! という感じで続く打楽器を読み終えたら、
何と編入楽器は627ページから始まる、
ということはこれだけであと3分の1あるわけです。><

とは言え、ここからはピアノとかギターとか
自分には寧ろ馴染みの深い楽器が並ぶことも確か。
ピアノに関しては自分が一番よく知っている楽器なので、
(゜ー゜)(。_。)ウンウン、と思いながら読むところもあれば、
(´・∀・`)へぇ〜、そうなんだ、と改めて知る事もあり、
なかなかおもしろいですね。

オーケストラの楽器は、その音色が欲しくて使ってきましたが、
一つ一つ、どうやって音を出しているかということがわかると
そして普通ではない音の出し方を
作曲家たちが工夫していたことを知ると
これまで知っていた曲たちも聞こえ方が変わってきますね。

というわけで引き続き勉強を続けるヒロシなのでした。
これがこれからの音作りにどう影響することになるのか
まぁ、お楽しみにしていて下さい。^^

2023年4月12日水曜日

【RL】 坂本龍一さんのこと〜つづき

前の日記で坂本龍一さんの映画音楽について勝手なことを書いたが、
書くつもりでいながら長くなったので書かなかったことがあります。
今回は補遺としてその書かなかったことについて触れます。

映画音楽の作曲者として坂本さんが注目を浴びたのが
例の「戦場のメリークリスマス(1983)」ですし、
アカデミー賞を受賞したのが次の「ラストエンペラー(1987)」、
そして1991年には「シェルタリング・スカイ」の音楽を担当します。
この「シェルタリング・スカイ」もまたクラシック的な
短い動機が繰り返される形で曲が進行します。
雑誌の「キーボードマガジン」にピアノ譜が載ったので
当時僕も練習しました。w

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実は、僕の中ではこの3つはセットになっているのです。
リアルタイム的に自分でピアノに取り組んだからでしょうか。
しかもよく見ると、この「シェルタリング・スカイ」の動機、
「戦場のメリークリスマス」の1小節目や
「ラストエンペラー」の第一の動機の後半部分に似ています。
比較のためにこれらの譜例をもう一度掲げておきますね。

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僕の記憶に誤りがなければ、「キーボードマガジン」の楽譜には
坂本さんご自身の解説が付いていて、
エンディング直前でマイナーからメジャーに転ずることについて
触れられていたように思います。
「シェルタリング・スカイ」は全体はト短調ですが、
確かにこの部分、短調による同じ動機の繰り返しが
長調に切り替わってあたかも光が差して来るようで素晴らしいのです。

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僕は短調で始まった曲が長調で終わるのが好きなのです。
今書いた通り、どちらかというと哀愁を感じさせるメロディーが
最後には光が差して来て希望を持って終わるようで。
実はバッハの時代はそれが当たり前だったのだそうなのです。
で、この曲も光が一杯差して来て力強く終わるのかと思いきや、
再び短調に転じで静かに消え入るように終わるのは
そこが坂本さんらしいひねりなのでしょうか。
ただ、この静かなエンディングは音数が少ないので
最早短調とも長調ともつかない曖昧な雰囲気になっているのです。
全体としては主人公の揺れ動く心が音楽で表現されている
ということなのでしょうか。

さて、話を「ラストエンペラー」に戻します。
前回僕はこのテーマ曲を一つの管弦楽曲に見立てて
今から○十年前に行った自分なりの解釈をお伝えしたわけですが、
この稿を書くに当たっていろいろ確認する必要があると思い、
この映画のサントラ盤 CD を買い直しました。
前は「戦場のメリークリスマス」と共に
LP レコードで持っていたはずですが、売ってしまったか
実家に送ったか、今ぱっと参照できないので買ったのです。

そして、ふと気になったことがあったので確認しました。
映画のテーマ曲の場合、オーケストレーションは作曲者とは
別の人が担当していたり、
オーケストラの指揮も作曲者自身でなかったりします。
私が驚いたのはミュージカルの「ウェストサイド物語」で、
作曲が当時ニューヨークフィルの指揮者バーンスタインであることは
有名な話だと思うのですが、サントラ盤のクレジットを見ると
何とオケの指揮はバーンスタインではないのですね。

そんなこともあって、坂本さんが作曲した一連の曲は
誰が演奏しているんだろう? と思ったのですね。
で、今回クレジットを見返してみると、共同作曲者の
デヴィッド・バーンと蘇聡のところには "Perfomed by" として
演奏者の記載があるのですが、坂本さんのところにはない!
え? と思ってよく見ると、最後に Fairlight Programming として
ヒロ・スガワラさんのお名前と共に、
ハンス・ツィマーさんがクレジットされているではないですか!
なるほど、生のオケではなくて Fairlight CMI の音だったのですね!

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で、ハンス・ツィマーと言えば今や押しも押されぬ映画音楽の大家、
ハリウッドの大作でこの人が音楽を担当していないものを探すのが
難しいくらいの存在感のある人ですね。
この方が注目を浴びたのが 1988 年の「レインマン」の音楽だそうで、
その直前、彼は坂本さんの音楽の手伝いをしていたんですね!
そしてはい、このハンス・ツィマーのオーケストレーションも
僕はいろいろと参考にさせて戴いています。
僕を魅了した映画音楽を生み出したこの二人が
こうして繋がっているというのはとても感慨深いものがありました。

いやぁ、映画音楽ってホントにいいもんですね!

2023年4月8日土曜日

【RL】 坂本龍一さんのこと

今週初めの日曜日、床に就いたところで
坂本龍一さんの訃報が飛び込んで来て衝撃を受けました。
最近の活動はフォローしておらず、
かつてかなり刺激を受けた方であり、
高橋幸宏さんの場合と違って闘病されていたことも知らなかったので
え? ととても驚いたのです。
だってまだ71歳だったんですよね。
幸宏さんも同い年なので70歳で亡くなられたわけですが。

さて、刺激を受けたと言っても、僕は SL の他の音楽仲間と違って
リアルタイムでは YMO にはかなり興味をそそられつつも
ある種の反発も感じていたわけなのです。
(NHK の「ニュースセンター9時」みたいな
「Behind the Mask」や「東風」他坂本さんのナンバーは
勿論好きなわけですが。^^;)

が、坂本さんがソロとして映画「戦場のメリークリスマス」の音楽を
担当されてから俄然目が離せなくなったのです。
僕は子供の頃はロックや歌謡曲はあまり聴いてなくて、
音楽は映画音楽とかイージーリスニングから入った人なので、
やはり坂本さんが映画のタイトル曲を担当されたということが
とても興味深いのは勿論、何てキャッチーで
心に沁みるメロディなんだろうと思い、
自分でも楽譜を買ってきてピアノで弾いてましたね。

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フラットが5つもあるので慣れない方は敬遠したくなるでしょうが、
実はこれ、ピアノで弾くと殆ど、C と F 以外の音は黒鍵だけなので
寧ろ弾き易い曲なのです。
当時僕はドビュッシーの音楽に心酔していて
黒鍵だけの5音音階とか、1オクターブに6つしか音のない
全音階とか、そんな曲ばかり作っていたので、
この曲はとても親しみをもって接していました。

この曲も黒鍵メインの5音音階のメロディーが
アジア的な響きを持って私たちの心に訴えてくるのですが、
更にこのテーマというか動機、よく見ると、
5音—7音(休符含めて)—5音、つまり五七五という
俳句のリズムになっているではないですか。
そう、これは音楽による俳句なのだ!
(とは言い過ぎか。w)

そして五七五と言えば、日本人に馴染みのある数字としては
七五三があるわけですが、その「3」については、

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そう、有名な五七五のテーマに入る前にかなり長い
3つずつ音符が集まったメロディによる序奏があります。
そしてこのメロディは4の倍数である12音ごとにまとまっているので、
自然と4拍子のテーマに雪崩れ込んでいけるわけなんです。
何かよくできてる曲だなぁ、と感じながら、
当時はバッハやドビュッシーの曲と一緒に弾いていましたね。
(最近は全然楽譜のある曲を弾くことをやってないけど。w)

で、「戦場のメリークリスマス」はこの短い音の集まりが
何度も繰り返されながら曲が展開していくのだけれど、
これはどちらかというとクラシックの手法ですね。
有名なのはべートーヴェンの交響曲第五番、
例の「ンタタタ」という短い音の塊だけで
500小節も展開するというのは驚異的ですが、
坂本さんの曲もそういうところがあります。
往年の映画のテーマ曲を担当されていた作曲家の皆さんは
ジャズ出身の方が多くて、従ってメロディのある曲が多いのですが、
坂本さんの場合は次の「ラストエンペラー」のテーマになると
よりこのクラシック的要素が強くなり、
小さな1つの動機がいろいろに展開された形で
映画を彩る曲たちに発展しているように感じられます。

いや、今回この稿を書くに当たって、これらの曲に纏わる
インタビュー記事その他は一切読んでいないのです。
なので、実際には、他の曲が先に出来て
テーマはそれを組み合わせて作っただけかもしれない。
が、ここは敢えて作品として出来上がったものを
恰も管弦楽組曲のように読み解いていこうと思うのです。

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短い序奏のあと、すぐにこの動機がハ短調で現れます。
この動機を何度か繰り返してその後変ホ短調に転じたあと
メロディの片鱗のようなものが現れては消え現れては消えして
最後にホ短調に転調したところで
漸く完全がメロディが現れますが、これはまた動機の短さとは反対に
えらく息の長いメロディなのです。

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そしてこの息の長いメロディを繰り返したあと、
第二の動機が姿を現します。

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この第二の動機の片鱗のようなものが
第一の動機によるメロディの5小節目辺りに出てきますが、
この短い3音+長い1音というパターンは
この映画音楽のあちこちで見られるように感じられます。
そもそも、第一の動機はハチロクの拍子なので、
基本が3つの音の集まりで出来ているのですが、
このハチロクというのは実にトリッキーな拍子で、
3音の塊が2つとも2音の塊が3つとも解釈でき、
この音楽では実に絶妙にハチロクの第一動機からなるメロディが
2分の2の第二動機につながっていくのです。

話がやや長くなりましたが、この第二動機を裏返したパターンが
「Open the Door」という緊張感の溢れる曲に出てきます。

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実際、この曲はこの緊張感溢れるパターンを繰り返したあと
第二の動機そのものにつながっていきます。

緊張感溢れると言えば「I wanna divorce!」というシーンで出て来る
「Rain」という曲も第二の動機の裏返しパターンの
更に展開形と言えるかもしれません。

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この符割は私独自のもので、恐らくピアノ譜などでは
1拍目3拍目とそれ以外の音は声部を分けて
1拍目3拍目は4分音符か2分音符、
下の声部は1拍目3泊目も同じ音が続く形で書いてあるでしょう。
が、耳に入って来る音はここに示したような感じで
このように書くと「Rain」=「雨」の連想で
ショパンの「雨だれ前奏曲」のようにも見えて来ませんか?w

こうして、「ラストエンペラー」の映画に出て来る
楽曲たちはそれぞれが密接につながりを持っていて、
それらが全てテーマにちりばめられた動機に依っているのです。
だから、というわけかどうか、サントラ盤では逆に
「First Coronation」、「Open the Door」といった
片鱗から展開した形が次々に紹介され、
最後にテーマに統一されるという実に感動的な構成になっています。

もう随分前のことですが、「ラストエンペラー」のテーマ曲の
楽譜を買ってきて弾こうとしたら調や拍子がバンバン変わるし
登場するモチーフも多いように感じて
練習するに先立って今回書いたような分析を行って取り組んだのです。
今回坂本さんの訃報に接して、追悼の意も込めて
僕が彼の音楽にどのように接していたかを披露させて戴きました。
天国で坂本さんは、勝手なこと書いてると怒っておられるか
或いは苦笑しておられるでしょうか。

いろいろと理屈を付けていますが、こうした一連の
坂本さんの音楽が好きなことに変わりはありません。
素晴らしい音楽をたくさんありがとうございます。
ご冥福をお祈り致します。