この週末、世界の様々な国で国の命運を賭けた選挙が行われてます。
まず、イギリスでは労働党が政権を奪還しました。
7月7日(日)の明日は、日本では都知事選があり、
フランスでは総選挙の第2回目の投票が行われます。
そして僕がずっと注目して来たのがイランの大統領選です。
選挙前に様々なメディアで伝えられた予想に反して
何と改革派のペゼシュキアン氏が当選したのです。
どうせ保守派の候補が勝利する茶番劇と見て、
改革派を支持する人たちは投票に行かないと言われていましたが
候補者の中でたった一人改革派のペゼシュキアン氏が
第1回目の投票で決選投票に残ったことで、
第2回目の投票では投票率が随分と伸びたようなのです。
投票は昨日だったので、今朝起きて日経でイギリス労働党勝利の
記事を読んだあと、イランはどうなっただろうと
ニュースを確認したのですが、日本の NHK は勿論のこと、
いつも一番早い BBC でさえ詳しい記事が出ていませんでした。
仕方がないので、久しぶりに IRIB、
即ちイラン・イスラム共和国放送のペルシャ語のサイトを確認、
あったあったありましたよ。
英語版のサイトでは開票の進捗についての記事はないのですが、
ペルシャ語版では日本時間午前 8:41 から開票情報が随時更新、
全国6万箇所の投票所のうち、3万5千箇所からの開票時点で
既に100万票以上の差でペゼシュキアン氏がリードしているのを
確認してから外出しました。
それにしても IRIB のサイトを見るのは久しぶりでした。
僕は2004年と2006年にイランを訪れていて、
その前後にはイランからの情報を直接確認したくて
よくアクセスしていたのです。
特に、2005年10月26日にアハマリネジャド大統領が、
「イスラエルは地図上から抹消されなければならない」
という発言を行ったと当時センセーショナルに報道された時は、
どうせこれは英語からの翻訳でしょ?
実際にはご本人はペルシャ語でどう発言したのだろう? と、
いろいろ調べたものです。
実際、同じことは誰でも疑問に思ったようで、
当時国会で鈴木宗男議員が小泉総理に質問しています。
総理は「当該発言の正確な内容を確認するには至っていない」
と回答しています。
今ネットで検索するとこの発言に関する記事は
「しんぶん赤旗」以外では見つからないことから、
後に誤訳だったことがわかって消されたのかなと想像しています。
本件は、恐らくは「ニューヨークタイムズ」紙に
ナジラ・ファティ記者が寄稿した英訳が一人歩きしたものだろうと
自分はそう見ています。
ご参考と自分の備忘のために、該当箇所の記者の英訳とその翻訳を
別途入手したペルシャ語の原稿とその翻訳とを合わせて
ここに転記しておきます。
* * *
<英語版>
Who could believe that one day we could witness the collapse of the Eastern Empire? But we have seen its fall during our lives and it collapsed in such a way that we have to refer to libraries because no trace of it is left.Imam [Khomeini] said Saddam must go and he said he would grow weaker than anyone could imagine. Now you see the man who spoke with such arrogance ten years ago that one would have thought he was immortal, is being tried in his own country in handcuffs and shackles by those who he believed supported him and with whose backing he committed his crimes.
Our dear Imam said that the occupying regime must be wiped off the map and this was a very wise statement.We cannot compromise over the issue of Palestine. Is it possible to create a new front in the heart of an old front. This would be a defeat and whoever accepts the legitimacy of this regime [Israel] has in fact, signed the defeat of the Islamic world.Our dear Imam targeted the heart of the world oppressor in his struggle, meaning the occupying regime. I have no doubt that the new wave that has started in Palestine, and we witness it in the Islamic world too, will eliminate this disgraceful stain from the Islamic world.But we must be aware of tricks.
ある日突然、東の帝国が崩壊するのを目撃できるなんて、誰が信じたでしょうか。しかし、私たちは生きている間にその崩壊を見たのです。そして、その崩壊は、跡形もなく図書館に頼らざるを得ないほどでした。イマーム(ホメイニ師)は、サッダームは去らなければならない、そしてサッダームは誰も想像できないほど弱くなるだろうと言いました。今私たちが目にするのは、10年前には不死身だと思われるほど傲慢に語った男が、自分の国で、彼を支持していると信じ、その後ろ盾で犯罪を犯した人々によって手錠と足かせをはめられて裁判にかけられている姿です。
私たちの敬愛するイマームは、占領政権は地図から消し去らなければならないと言いましたが、これはとても賢明な発言だったと言えます。パレスチナ問題で妥協することはできません。古い前線の真ん中に新しい前線を作ることは可能でしょうか。これは敗北であり、この政権(イスラエル)の正当性を認める者は、事実上、イスラム世界の敗北に署名したことになります。私たちの敬愛するイマームは、その闘争において世界の抑圧者、つまり占領政権の心臓部を標的にしました。パレスチナで始まった新しい波、そしてイスラム世界でも目撃されている新しい波が、イスラム世界からこの不名誉な汚点を一掃することを私は疑いません。しかし、私たちは策略に気を付けなければなりません。
<ペルシャ語版>
كسى باور نمى كرد يك روز ما سقوط امپراتورى شرق را ببينيم. مى گفتند حكومت آهنين، اما ما در عمر كوتاه خودمان ديديم. آنچنان فرو ريخت كه اگر بخواهيد از آن سراغ بگيريد بايد به كتابخانه ها برويد. به كتابخانه كه مى رويد و به كتابدار مى گوييد، مى گويد بله ما مشتى كتاب آنجا داريم، در گونى گذاشته ايم و دارد خاك مى خورد، از آنها مى خواهيد؟ هيچ آثارى نيست. امام فرمودند صدام بايد برود و فرمودند صدام به چنان ذلتى گرفتار خواهد شد كه نظير ندارد. امروز ما چه مى بينيم.
اين آقايى كه ده سال پيش با چنان غرورى حرف مى زد كاَنه جاودانه است، امروز زنجير در دست و پا در كشور خودش، توسط كسانى كه با حمايت آنها جنايت مى كرد و دلخوش به حمايت آنها بود، دارد محاكمه مى شود و امام عزيز ما فرمودند كه اين رژيم اشغالگر قدس بايد از صفحه روزگار محو شود. اين جمله بسيار حكيمانه است. مسئله فلسطين مسئله اى نيست كه ما بياييم و روى بخشى از سرزمين آن سازش كنيم. مگر جبهه اى مى تواند اجازه بدهد در قلبش نيروهاى دشمن حضور داشته باشند. اين به منزله شكست است. هركس موجوديت اين رژيم را به رسميت بشناسد در واقع پاى برگه تسليم و شكست دنياى اسلام را امضا كرده است. امام عزيز ما در مبارزه سنگين اسلام با دنياى استكبارى و كفر، نقطه مركزى و فرماندهى قرارگاه دشمن را هدف گرفتند و آن هم رژيم اشغالگر قدس است. من ترديد ندارم موج جديدى كه در فلسطين عزيز به راه افتاده، موج بيدارى اى كه امروز در دنياى اسلام هست و موج معنويتى كه سرتاسر دنياى اسلام را فرا گرفته، به زودى زود اين لكه ننگ را از دامان دنياى اسلام پاك خواهد كرد و اين شدنى است؛ البته بايد مراقب فتنه ها باشيم.
東の帝国が崩壊する日が来るとは誰も信じていませんでした。鉄の政府と言われましたが、私たちはその崩壊を短い人生の中で見たのです。その崩壊の度合いはあまりにも激しく、この帝国について知りたければ図書館に行くしかありません。図書館に行って司書に言うと、「はい、そこに本がたくさんあるのですが、袋に入っていて汚れてしまってますが、それでも見たいですか?」と言うでしょう。それ程に痕跡が何も残っていないのです。イマーム[ホメイニ師]は、「サッダームは去らなければならない」とも、「サッダームは他に例を見ないほど屈辱を受けるだろう」とも言っていました。今日私たちが見ているのはどのような光景でしょうか?
10年前にあれほど誇りを持って語っていたこの紳士は、永遠に皮肉な存在となってしまいました。今日彼は、自分の国で、彼を支援して犯罪を犯し、喜んで彼を支援した人々によって、鎖につながれ、裁判にかけられているのですが、私たちの親愛なるイマーム[ホメイニ師]はこうも言っているのです。エルサレムを占領しているこの政権は時のページから[時代が変わればいつかは]消え去るべきものだ、と。これはとても賢明な発言だと思います。パレスチナ問題は、私たちがその土地の一部について妥協する問題ではありません。前線でその中心部に敵軍を迎え入れることがあり得るでしょうか? そんなことをしたら負けを意味します。この政権の存在を公式に認めた者は、実際にイスラム世界の降伏と敗北に署名したことになるのです。傲慢と不信仰の世界に対するイスラム教の激しい闘争の中で、私たちの親愛なるイマームは敵陣営の中心人物とリーダーとを標的にしました。それがエルサレム占領政権なのです。親愛なるパレスチナで始まった新たな波、今日のイスラム世界にある覚醒の波、そしてイスラム世界全体を覆っている霊的な波が、近いうちにこの恥辱の汚れをパレスチナの膝の上から取り除くだろうと私は信じています。イスラム世界にはそれが可能なのです。勿論、敵のはかりごとには気をつけなければなりませんが。
* * *
ペルシャ語原文の段落分けは、ファティ記者の英文を参考に
僕が改行を入れたもので、この僕が見ている文章が
ファティ記者が見たものと同じかどうかはわかりませんが、
少なくともこのペルシャ語の原文ではつながっている文章が、
英語版では異なる段落に分割され、
「地図から消し去らなければならない」という部分が
段落冒頭に来ることで強調されています。
元の文章は、鉄の政府と言われたフセイン大統領の帝国も
跡形もなく消えてしまった、
同じように、エルサレム政権の現体制も、時代の変化の中で
変わり、消えていくべき存在だ、と言っているにすぎません。
攻撃の対象はイスラエルという国でもそこに住む国民でもなく、
現体制を運営している指導者たちに向けられているだけなのです。
こうした誤訳が、それこそ時と共に明らかになり、
当時の報道記事もネットから消えてしまったのでしょうね。
何れにしても、強硬派だったアフマディネジャド氏は
今回の大統領選では候補者として認められませんでした。
保守派寄りのハーメネイー師は、「国民は正しい選択をする」
と述べていましたが、その国民が選択したのは
改革派のペゼシュキアン氏でした。
これからのイランは欧米に対しては強硬な姿勢でなく、
対話によるより平和的な路線を進むのでしょうか?
私が2004年にイランを訪れたのは、
当時のハータミー大統領がその著で訴えた『文明の対話』に応えて
いだきしんさんがペルセポリスで行ったコンサート
「文明間の対話」に参加するためでした。
世界がどんどん分断していくように思われる今、
再び対話を通して平和な世界が到来することを祈るばかりです。
そして、日本の皆さん、諦めてはダメなのです。
選挙で自分の意志を伝えることがよりよい未来を創ることなのです。