2024年9月17日火曜日

近況報告〜音楽哲学の試み・その4

 う〜ん、どこから話そう。
生成文法のことである。

「文法」と言えば皆さんがイメージするのは
高校の時に学んだ「英文法」や、中学校の時の「国文法」であろう。
これらの文法の体系は元はと言えば言語学から来ているが、
その言語学は古代ギリシャのホメロスの叙事詩などを
解読するために生まれたものだと言っていい。
ホメロスの叙事詩を解読するために書かれている文のルールが
一つ一つ検討され、そこで所謂「品詞」のような
単語のカテゴリー分けや活用表などが作られたのだ。
これが後にローマ帝国の時代にラテン語にも応用され、
更にヨーロッパ語の文法体系の規範となっていくのである。

やがて、研究が進むにつれ、サンスクリットなどのインドの言葉と
ヨーロッパ諸語は起源が同じであることが明らかにされる。
インド=ヨーロッパ語族と呼ばれるようになるそれである。
起源が同じであるとわかると話は早い。
古代ゲルマン語のこの単語はプロヴァンス語のこれに当たる、
というようなことがわかると、あと、それぞれの言語のルールが
わかると、ほぼ機械的に置き換えによる翻訳が可能なのである。

そして、日本でもまた、文字というものは中国から入って来た
漢字を使うようになり、中国語と日本語は語順が違うので
返り点を打ったり、中国語にはない「てにをは」を補うことで
中国語を日本語として読むことが可能になったのである。
これもまた、機械的な置き換えによる翻訳と言えるだろう。

これらヨーロッパでも日本でも、何れの場合でも、
表現されている「文」の置き換えができれば、
その内容を理解できるという考えの下に
言語学乃至は国語学は現在に至っていると言っていい。

しかし、日本語には有名な「僕はうなぎだ」という文例がある。
これは勿論、友だちと定食屋に行ってメニューを決める時の発言で、
「僕はうなぎにする、うなぎに決めた」という意味で、
別に特殊でもなんでもない普通の表現である。
が、これを従来の文から文への置換を行うと
英語では "I am an eel." というアヤシイ内容になってしまう。

時枝誠記(ときえだもとき)さんという国語学者がいて、
この方は学位論文で「言語過程説」というのを打ち立てた。
即ち、発話というのは音楽や絵画や小説や詩と同じように
その人の表現の一形態に過ぎないのであって、
音楽や絵画や文学がその背景にその作曲家や画家や作家の
表現したいものというのがあるのと同様、
言語による発話にもその背景に表現したい何かがあるのだ、
従って発話(文)そのものの意味というのは絶対ではない、
といったことを訴えたのだ。
その学位論文が出たのが1925年。

そして、1955年にノーム・チョムスキーという人が
「生成文法」の元になる考え方を示す。
何故、子供は文法を勉強せずに正しい言葉づかいを覚えるのか?
それは、どのような言語であれ、その言語に触れる経験を重ねる中、
ほぼ自動的にその言語のルール、文法を整理構築する能力を
人間は生まれながらにして持っているのだ、という考えであり、
チョムスキーはこの能力を「普遍文法」と名付けた。

この普遍文法について僕なりに理解しているところを
下の図に整理してみた。

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最近、AI 翻訳になって何故翻訳の精度が上がったか。
つまり、以前の機械翻訳に「この本は読んだ」と入れると
"This book read." という訳が返って来ていたが、
今はちゃんと"I read this book." と訳してくれる。
これは、AI がそれぞれの言語の膨大なデータベースに基づいて
より精密なルールでこの文の意味はきっとこうだと
普遍文法的な処理をしているからだろうと僕は見ている。
(言い方を変えると、AI の真似をして
 たくさんその言葉を経験すれば語学の上達は早いのだ。^^)

この生成文法が前提にしているのも、時枝さんと同じく、
話者の頭の中にあるイメージ、内容である。
これを日本語のルールを通せば「僕はうなぎだ」になるし、
英語のルールを通せば "I'll take an eel bowl." となるのだが、
頭の中のイメージを抜きにして「僕はうなぎだ」を
文のレベルで訳してしまうと "I am an eel." になってしまうのだ。
(こう考えると、例えば日本語を英語に訳す時、
 いきなりその文を英語で置き換えようとするのでなく、
 話者の頭の中のイメージに一回変換するとよいのだ。)

時枝さんは言語は音楽や絵画、文学と同じ表現としたのだが、
バーンスタインはこの逆に音楽も言語と同じ表現形式としたのだ。
「答えのない質問」の講義が言語学の用語である
音韻論、統語論、意味論で始まるのはある意味必然なのである。

2024年9月14日土曜日

近況報告〜音楽哲学の試み・その3

 前回書いた通り、アイヴスの「答えのない質問」は哲学的である。
ところで、この「答えのない質問」という日本語訳であるが、
他に「答えられない質問」という訳もある。
英語のタイトルは "The Unanswered Question" であるが、
この英語の含みは「まだ答えられていない質問」であり、
しかもそこに定冠詞 "the" が付いているので正確には
「まだ答えられていないあの質問」、そう、
何度も繰り返されたあの質問という意味なのである。
それが人間の存在に関わる質問、
哲学では問うてはいけないとされるあの質問のことなのだ。

しかし、バーンスタインは、これを音楽に関する質問と考える。
このアイヴスの「答えのない質問」が発表されたのは1908年だが、
同じ年、海を渡ったオーストリアのウィーンで
シェーンベルクが十二音技法のきっかけとなる無調の
「弦楽四重奏曲第2番嬰ヘ短調作品10」を発表する。
そして翌1909年の「3つのピアノ曲作品11」で
完全に十二音技法の世界を確立していくのである。

そう。僕等は無調というといつもシェーンベルクの
十二音技法を思い出すのだ。
ヴァーグナーが調整が壊れるギリギリまで半音階を突き詰めた
楽劇『トリスタンとイゾルデ』の音楽、
それを耳にしたドビュッシーは「ヴァーグナーの先」を目指して
調性感に乏しい、ふわふわと浮遊するような音楽を書いたのだった。
しかし、そのドビュッシーですら、そしてストラヴィンスキーですら
まだ調性の枠の中で音楽を書いているのである。
壊れかかった調性音楽、その先はどこに向かうのか?
シェーンベルクの答えは十二音技法だったが、
アイヴスは三和音を奏で続ける、ロマン派的な美しい弦と
調性感のないトランペットや木管楽器群で
「音楽はこれからどこへ向かうのか」を問うたと
バーンスタインは見るのである。

そしてその答えを探す旅がバーンスタインがハーバードで行った
全6回のノートン講義「答えのない質問」なのである。


この講義の内容は次の通りだ。

Lecture I. Musical Phonology「音楽に於ける音韻論」
Lecture II. Musical Syntax「音楽に於ける統語論」
Lecture III. Musical Semantics「音楽に於ける意味論」
Lecture IV. The Delights and Dangers of Ambiguity「曖昧さの持つ楽しさと危険性」
Lecture V. The Twentieth Century Crisis「20世紀の危機」
Lecture VI. The Poetry of Earth「大地の詩(うた)」

最初の3回のタイトルをご覧頂ければわかるように、
音韻論、統語論、意味論というのは言語学の用語だ。
そう、バーンスタインは音楽を語るのに言語学の用語を用いて
言語学との対比、類推で語るのだ。
これがおもしろい。
何と言っても、第2回の統語論ではチョムスキーの生成文法が
飛び出して来たのには参った。
というのも、僕はちょうど昨年から盛り上がって来た
生成 AI に関連して、チョムスキーの生成文法を学び直しているからだ。
何故生成 AI が出て来てから機械翻訳の質が格段に上がったか、
それは結局のところ、生成 AI は生成文法の考え方に
基づいているからだと僕は考えるのだが、
この話をしだすとまた長くなるので今日はこの辺で。

2024年9月9日月曜日

近況報告〜音楽哲学の試み・その2

 バーンスタインの「答えのない質問」の講演を思い出したのも、
やはり小澤征爾さんと関係がある。

小澤さんの CD について書いている時に、
僕は吉田秀和さんの『LP 300選』を元に聴いていることに触れ、
その本の中で吉田さんが薦めている小澤さんのディスクを
書き並べたのだが、その時1つ書き漏らしたものがあることに
あとで気づいたのです。
それは、吉田さんが「追記」として、
アメリカの音楽家で挙げておかなければならなかったと書いている
チャールズ・アイヴスのディスクなのです。
これに気づいてこの本で挙げられている
ティルソン・トーマスが『イングランドの3つの物語』を
小澤さんが『交響曲第4番』を指揮しているディスクを買って
それを聴きながら、何か忘れている感じがずっとあったのです。
アイヴス、、、アイヴス、、、何かもっと有名な、
気になる曲があったような。。。

そして思い出したのがアイヴス1908年の作品
「答えのない質問」だったのです。
実は、この曲は僕にはずっと謎の曲でした。
というのは、この曲に初めて出会ったのはオーケストラでなく、
冨田勲さんのアルバム『宇宙幻想』にシンセアレンジで
入っているのを聴いたのが初めてだったのです。

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このアルバムには「ツァラトゥストラかく語りき」やら
「アランフエス協奏曲」やら、はたまた「パシフィック231」やら
僕好みの曲がいろいろ入っているのですが、
その中でこのアイヴスの曲だけが聞いたことがなかった。
正直、印象は薄いんだけれど、何とも不思議な響きの曲、
そんな風に思っていたのです。
この曲を突然思い出し、そしてバーンスタインの講演のタイトルを
思い出して、バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルの CD と
この曲の楽譜を手に入れたわけなんですが、
その楽譜にアイヴス自身はこんな解説を書いているではないですか。

「常に弱音器を付けて演奏される弦の響きは
 『何も知らず、何も見ず、何も聞こえない』ドルイドを表現」
「トランペットは存在についての長年の質問を繰り返す」

何と哲学的なモチーフなのでしょう!
「何も知らず、何も見ず、何も聞こえない」って
ガリアのドルイド僧よりは、日本の三猿を思い出させますよね。
前にも書いた通り、バーンスタインがこのアイヴスの曲のタイトルで
講演を行ったことは知っていたので、
そうであれば、どんな講演を行ったのか、
無性に知りたくなったわけなのです。
同時に、この曲に僕自身で取り組んでみたくなったのです。

     *   *   *

はい、というわけで、アイヴスの「答えのない質問」は、
今度の Burn2 で演奏する予定にしています。
今日のところはこの辺で。^^;

2024年9月8日日曜日

近況報告〜音楽哲学の試み・その1

 ヒロシです。大変ご無沙汰しています。
6月の終わりに SL21B に参加して以来、
7月の初めにこの日記を少し書いただけで、
8月は全く音沙汰ない状態が続いていましたね。
SL にも殆どインしていませんでしたので、
この間僕が何をしていたかについて、
ちょっと長くなるかもしれないけれど、書いてみることにします。

     *   *   *

高校生や大学生の頃、「音楽哲学」なるものについて
友人たちと語り合っていました。
「音楽の哲学」、即ち、「音楽の原理」のことではありません。
音楽という行為そのものが哲学的な問題、
「私たちはどこから来たのか」「自分は何故今ここにいるのか」
「私たちはこの先どこへ向かうのか」、そして究極の質問である
「存在とは何か」を考え、追求することにつながるというものです。
「哲学」と「音楽」という、最も趣味的で
最もお金にならないようなものの組み合わせが僕の中では
解き明かさなければならないものとして心の中にあったのでした。
社会人になってお金にならないものはつまらないもののように言う
周りの影響もあって、こうしたことは長い間忘れていました。
それを思い出させてくれたのが何と、
今年の SL21B だったというわけです。

今年の SL21B のテーマは "Elements" でしたので
自分のライブでは西洋の四大元素ではなく、中国の五行をテーマに
「五行組曲」というシンセサイザーの即興演奏による組曲を
皆さんには披露したわけですが、「元素」を扱うに当たって
やはりその元素が生まれたそもそもの初めである
「宇宙のはじまり」を表現しなければと思い、
冒頭に "Big Bang: First Three Minutes" という曲を置いたのです。
そう、宇宙が3分間でできたのなら、それは音楽にするには
ちょうどよい長さではないか、と。

私たちの住む宇宙が3分間でできたというのは
スティーヴン・ワインバーグが 1977 年に出版した
『宇宙創成はじめの三分間』で一般の人たちに広まりました。
僕もこの本のことは知っていて、昔立ち読みしたことはありますが、
ちゃんとは読んでなかった。
読むべき本のリストには入れていたものの、そのままになってて、
SL21B を機に、今はちくま文庫から出ているので、
仕事の行き帰りに電車の中でちょこちょこ読み始めたら
これがとても面白い!

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大学生の頃から思っているのですが、
アメリカの優れた科学者というのは皆文章がうまい。
ワインバーグのこの本も、難しい話が展開されているにも拘わらず、
各章の最後はクリフハンガーめいて気になる終わり方をするので、
え、え、それでどうなるの? と次の章も続けて読んでしまい、
あっと言う間に読み終えてしまう、という仕掛けになっています。
今更ですが、この本は目から鱗というか、そうだったのかぁ! と、
日本でニュートリノの実験が行われていたり、
その第一人者の小柴昌俊さんや素粒子物理学の南部陽一郎さんが
ノーベル賞を受賞したのが何故なのか、漸くわかってきた次第です。
このお二人にはそれぞれ
『ニュートリノ天体物理学入門 知られざる宇宙の姿を透視する』、
『クォーク 第2版―素粒子物理はどこまで進んできたか』という
何れも講談社のブルーバックスから出ている名著があって、
これも読みかけになっていたのを、ワインバーグの本を読んでから
一気に読み通すことができたのです。
更にはこれらの本で学んだことを確かめようと、
お台場にある科学みらい館に足を運んで一人興奮する始末。w

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無限に広がる大宇宙のはじまりを解き明かすには
目には見えない量子レベルで起こっていることを知る必要がある、
これはとても興味深いことです。
しかも、現代の物理学では、
宇宙が始まった最初の100分の1秒前以前のことはわからない。
とすればその前は何があったのか、何もなかったのか、
或いはまた別の宇宙があったのか?
哲学でも問うてはならないとされる「存在とは何か?」の問いは
ここで物理学という、一見哲学から最も遠い学問のテーマとも
重なっていくのです。
そんなことを考えながら僕はあのビッグバンの曲に
取り組んでいたのでした。

     *   *   *

話は変わって、今年の2月に小澤征爾さんが亡くなりましたが、
その時に書いた日記で、小澤さんが指揮と語りを担当した
「ピーターと狼」や「青少年のための管弦楽入門」を録れた
CD について紹介しました。
その際僕は「あの気さくな語り口で、とても親しみがあっていい」
と書きましたが、そう書きながら僕が思い出していたのが
同じ指揮者のレナード・バーンスタインだったのです。
バーンスタインは1958年から1972年にかけて
Young People's Concerts という子供たちが
クラシック音楽の演奏会に親しめるような企画を行っていて
それが CBS のテレビで放送され、それが DVD にもなってますが、
そこでのバーンスタインの語り口がまた素晴らしいのです。
ブリテンの「青少年のための管弦楽入門」は英語の原題を
The Young Person's Guide to the Orchestra というのですが、
小澤さんのあの語り口と、この曲の原題とが
バーンスタインの Young People's Concerts への連想に
つながったのだと思います。

CBS で放送されたバーンスタインの Young People's Concerts は
全部で53回あって、DVD を揃えるのはとても大変です。
一部は観たことがあるのですが、一度全部観てみたいと思って
調べてみたら、何とちゃんと YouTube に上がっているのですね。


それでちょこちょこ暇を見つけては、というよりは、
半分は仕事感覚で全53回観ましたよ。
第1回の「音楽って何?」から始まり、
第33回の「オーケストラの響き」とか、
僕等が半分当たり前に思っているようなことを
簡単な言葉で改めて整理してくれているのはとても勉強になります。
更に動画だけでなく、各回のスクリプトも公開されていますので、
興味のある方はどうぞ。


で、こういう長いシリーズを観終わると、
終わったことが淋しく、残念なものに思えて
続きはないかと期待したり、探したくなるもの。
それで思い出したのが同じバーンスタインが 1973 年に
ハーバード大学で行った6回の講義「答えのない質問」。
分厚い本になっているのは知っていて、大学の図書館で
パラパラめくってはいたけれども、やはりちゃんと読んでなくて、
あれもビデオになってないかと思って探したら
はい、やはりありましたよ。
そしてこれが超絶面白くて、今書いている「音楽哲学」を
呼び覚ますことになるのですが。。。

     *   *   *

長くなりましたので今日はこの辺で。
こうして本や動画を立て続けに読んだり観たりして
どっぷりその世界にハマって SL はおろそかになっていた
というわけなのです。^^;

2024年7月6日土曜日

【RL】 世界が動く時

この週末、世界の様々な国で国の命運を賭けた選挙が行われてます。
まず、イギリスでは労働党が政権を奪還しました。
7月7日(日)の明日は、日本では都知事選があり、
フランスでは総選挙の第2回目の投票が行われます。
そして僕がずっと注目して来たのがイランの大統領選です。
選挙前に様々なメディアで伝えられた予想に反して
何と改革派のペゼシュキアン氏が当選したのです。
どうせ保守派の候補が勝利する茶番劇と見て、
改革派を支持する人たちは投票に行かないと言われていましたが
候補者の中でたった一人改革派のペゼシュキアン氏が
第1回目の投票で決選投票に残ったことで、
第2回目の投票では投票率が随分と伸びたようなのです。

投票は昨日だったので、今朝起きて日経でイギリス労働党勝利の
記事を読んだあと、イランはどうなっただろうと
ニュースを確認したのですが、日本の NHK は勿論のこと、
いつも一番早い BBC でさえ詳しい記事が出ていませんでした。
仕方がないので、久しぶりに IRIB、
即ちイラン・イスラム共和国放送のペルシャ語のサイトを確認、
あったあったありましたよ。
英語版のサイトでは開票の進捗についての記事はないのですが、
ペルシャ語版では日本時間午前 8:41 から開票情報が随時更新、
全国6万箇所の投票所のうち、3万5千箇所からの開票時点で
既に100万票以上の差でペゼシュキアン氏がリードしているのを
確認してから外出しました。

それにしても IRIB のサイトを見るのは久しぶりでした。
僕は2004年と2006年にイランを訪れていて、
その前後にはイランからの情報を直接確認したくて
よくアクセスしていたのです。
特に、2005年10月26日にアハマリネジャド大統領が、
「イスラエルは地図上から抹消されなければならない」
という発言を行ったと当時センセーショナルに報道された時は、
どうせこれは英語からの翻訳でしょ?
実際にはご本人はペルシャ語でどう発言したのだろう? と、
いろいろ調べたものです。

実際、同じことは誰でも疑問に思ったようで、
当時国会で鈴木宗男議員が小泉総理に質問しています。
総理は「当該発言の正確な内容を確認するには至っていない」
と回答しています。
今ネットで検索するとこの発言に関する記事は
「しんぶん赤旗」以外では見つからないことから、
後に誤訳だったことがわかって消されたのかなと想像しています。

本件は、恐らくは「ニューヨークタイムズ」紙に
ナジラ・ファティ記者が寄稿した英訳が一人歩きしたものだろうと
自分はそう見ています。
ご参考と自分の備忘のために、該当箇所の記者の英訳とその翻訳を
別途入手したペルシャ語の原稿とその翻訳とを合わせて
ここに転記しておきます。

     *   *   *

<英語版>

Who could believe that one day we could witness the collapse of the Eastern Empire? But we have seen its fall during our lives and it collapsed in such a way that we have to refer to libraries because no trace of it is left.Imam [Khomeini] said Saddam must go and he said he would grow weaker than anyone could imagine. Now you see the man who spoke with such arrogance ten years ago that one would have thought he was immortal, is being tried in his own country in handcuffs and shackles by those who he believed supported him and with whose backing he committed his crimes.

Our dear Imam said that the occupying regime must be wiped off the map and this was a very wise statement.We cannot compromise over the issue of Palestine. Is it possible to create a new front in the heart of an old front. This would be a defeat and whoever accepts the legitimacy of this regime [Israel] has in fact, signed the defeat of the Islamic world.Our dear Imam targeted the heart of the world oppressor in his struggle, meaning the occupying regime. I have no doubt that the new wave that has started in Palestine, and we witness it in the Islamic world too, will eliminate this disgraceful stain from the Islamic world.But we must be aware of tricks.

ある日突然、東の帝国が崩壊するのを目撃できるなんて、誰が信じたでしょうか。しかし、私たちは生きている間にその崩壊を見たのです。そして、その崩壊は、跡形もなく図書館に頼らざるを得ないほどでした。イマーム(ホメイニ師)は、サッダームは去らなければならない、そしてサッダームは誰も想像できないほど弱くなるだろうと言いました。今私たちが目にするのは、10年前には不死身だと思われるほど傲慢に語った男が、自分の国で、彼を支持していると信じ、その後ろ盾で犯罪を犯した人々によって手錠と足かせをはめられて裁判にかけられている姿です。

私たちの敬愛するイマームは、占領政権は地図から消し去らなければならないと言いましたが、これはとても賢明な発言だったと言えます。パレスチナ問題で妥協することはできません。古い前線の真ん中に新しい前線を作ることは可能でしょうか。これは敗北であり、この政権(イスラエル)の正当性を認める者は、事実上、イスラム世界の敗北に署名したことになります。私たちの敬愛するイマームは、その闘争において世界の抑圧者、つまり占領政権の心臓部を標的にしました。パレスチナで始まった新しい波、そしてイスラム世界でも目撃されている新しい波が、イスラム世界からこの不名誉な汚点を一掃することを私は疑いません。しかし、私たちは策略に気を付けなければなりません。


<ペルシャ語版>

كسى باور نمى كرد يك روز ما سقوط امپراتورى شرق را ببينيم. مى گفتند حكومت آهنين، اما ما در عمر كوتاه خودمان ديديم. آنچنان فرو ريخت كه اگر بخواهيد از آن سراغ بگيريد بايد به كتابخانه ها برويد. به كتابخانه كه مى رويد و به كتابدار مى گوييد، مى گويد بله ما مشتى كتاب آنجا داريم، در گونى گذاشته ايم و دارد خاك مى خورد، از آنها مى خواهيد؟ هيچ آثارى نيست. امام فرمودند صدام بايد برود و فرمودند صدام به چنان ذلتى گرفتار خواهد شد كه نظير ندارد. امروز ما چه مى بينيم. 

اين آقايى كه ده سال پيش با چنان غرورى حرف مى زد كاَنه جاودانه است، امروز زنجير در دست و پا در كشور خودش، توسط كسانى كه با حمايت آنها جنايت مى كرد و دلخوش به حمايت آنها بود، دارد محاكمه مى شود و امام عزيز ما فرمودند كه اين رژيم اشغالگر قدس بايد از صفحه روزگار محو شود. اين جمله بسيار حكيمانه است. مسئله فلسطين مسئله اى نيست كه ما بياييم و روى بخشى از سرزمين آن سازش كنيم. مگر جبهه اى مى تواند اجازه بدهد در قلبش نيروهاى دشمن حضور داشته باشند. اين به منزله شكست است. هركس موجوديت اين رژيم را به رسميت بشناسد در واقع پاى برگه تسليم و شكست دنياى اسلام را امضا كرده است. امام عزيز ما در مبارزه سنگين اسلام با دنياى استكبارى و كفر، نقطه مركزى و فرماندهى قرارگاه دشمن را هدف گرفتند و آن هم رژيم اشغالگر قدس است. من ترديد ندارم موج جديدى كه در فلسطين عزيز به راه افتاده، موج بيدارى اى كه امروز در دنياى اسلام هست و موج معنويتى كه سرتاسر دنياى اسلام را فرا گرفته، به زودى زود اين لكه ننگ را از دامان دنياى اسلام پاك خواهد كرد و اين شدنى است؛ البته بايد مراقب فتنه ها باشيم. 

東の帝国が崩壊する日が来るとは誰も信じていませんでした。鉄の政府と言われましたが、私たちはその崩壊を短い人生の中で見たのです。その崩壊の度合いはあまりにも激しく、この帝国について知りたければ図書館に行くしかありません。図書館に行って司書に言うと、「はい、そこに本がたくさんあるのですが、袋に入っていて汚れてしまってますが、それでも見たいですか?」と言うでしょう。それ程に痕跡が何も残っていないのです。イマーム[ホメイニ師]は、「サッダームは去らなければならない」とも、「サッダームは他に例を見ないほど屈辱を受けるだろう」とも言っていました。今日私たちが見ているのはどのような光景でしょうか?

10年前にあれほど誇りを持って語っていたこの紳士は、永遠に皮肉な存在となってしまいました。今日彼は、自分の国で、彼を支援して犯罪を犯し、喜んで彼を支援した人々によって、鎖につながれ、裁判にかけられているのですが、私たちの親愛なるイマーム[ホメイニ師]はこうも言っているのです。エルサレムを占領しているこの政権は時のページから[時代が変わればいつかは]消え去るべきものだ、と。これはとても賢明な発言だと思います。パレスチナ問題は、私たちがその土地の一部について妥協する問題ではありません。前線でその中心部に敵軍を迎え入れることがあり得るでしょうか? そんなことをしたら負けを意味します。この政権の存在を公式に認めた者は、実際にイスラム世界の降伏と敗北に署名したことになるのです。傲慢と不信仰の世界に対するイスラム教の激しい闘争の中で、私たちの親愛なるイマームは敵陣営の中心人物とリーダーとを標的にしました。それがエルサレム占領政権なのです。親愛なるパレスチナで始まった新たな波、今日のイスラム世界にある覚醒の波、そしてイスラム世界全体を覆っている霊的な波が、近いうちにこの恥辱の汚れをパレスチナの膝の上から取り除くだろうと私は信じています。イスラム世界にはそれが可能なのです。勿論、敵のはかりごとには気をつけなければなりませんが。

     *   *   *

ペルシャ語原文の段落分けは、ファティ記者の英文を参考に
僕が改行を入れたもので、この僕が見ている文章が
ファティ記者が見たものと同じかどうかはわかりませんが、
少なくともこのペルシャ語の原文ではつながっている文章が、
英語版では異なる段落に分割され、
「地図から消し去らなければならない」という部分が
段落冒頭に来ることで強調されています。
元の文章は、鉄の政府と言われたフセイン大統領の帝国も
跡形もなく消えてしまった、
同じように、エルサレム政権の現体制も、時代の変化の中で
変わり、消えていくべき存在だ、と言っているにすぎません。
攻撃の対象はイスラエルという国でもそこに住む国民でもなく、
現体制を運営している指導者たちに向けられているだけなのです。
こうした誤訳が、それこそ時と共に明らかになり、
当時の報道記事もネットから消えてしまったのでしょうね。

何れにしても、強硬派だったアフマディネジャド氏は
今回の大統領選では候補者として認められませんでした。
保守派寄りのハーメネイー師は、「国民は正しい選択をする」
と述べていましたが、その国民が選択したのは
改革派のペゼシュキアン氏でした。
これからのイランは欧米に対しては強硬な姿勢でなく、
対話によるより平和的な路線を進むのでしょうか?
私が2004年にイランを訪れたのは、
当時のハータミー大統領がその著で訴えた『文明の対話』に応えて
いだきしんさんがペルセポリスで行ったコンサート
「文明間の対話」に参加するためでした。
世界がどんどん分断していくように思われる今、
再び対話を通して平和な世界が到来することを祈るばかりです。
そして、日本の皆さん、諦めてはダメなのです。
選挙で自分の意志を伝えることがよりよい未来を創ることなのです。

2024年7月1日月曜日

【SL21B】 見逃せない展示の数々

さて、土曜日のライブが終わって脱力状態のヒロシです。
日曜日になって漸く気持ちに余裕が出てきたので
やっとのことで SL21B の会場巡りを始めました。
まず訪れたのは勿論、土曜日のライブで演出と照明をしてくれた
ケルパさんの展示会場です。

■Kerupa Flow: I Have a Dream
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とってもとっても不思議な世界が広がっていますので、
是非是非ご自身で訪れていろいろ体験してみて下さい。

それから、この世界ではレジェンドと言っていい
Bryn Oh さんの新しい展示のプレビューもありましたね。

■Bryn Oh: Skyfisher preview
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"Skyfisher" という名のアートーワークは7月6日開催とのことで
上の SLURL の展示会場で参加の仕方などが書いてあります。

この他、Burn2 でお世話になっている iSkye Silverweb さん他の
仲間のような方々の展示もありました。
が、リストを見ていて、お? と目に止まったのが次の展示。

■CoutureChapeau Resident, Balthazar Fouroux, Chigadee London: Elementary, my dear Watson
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そうなんです。ベーカー街221B なんですよ、ワトソン君。
ドアを開けて入ると「あの部屋」が再現してあって、
コーヒーテーブルの上にちらかってる
"Earth" とか "Fire" とか書かれている紙に座ると。。。
そう、四大元素を表した部屋に飛ばされて、
そこにある宝箱をクリックすると、
シャーロック・ホームズ縁の品々や四大元素を満喫できる
お勧め SIM のリストがもらえるという仕掛けです。

昨日見たのは大体こんなところ、他にもおもしろいところは
たくさんありそうです。
展示会場は7月21日(日)までやっていますが、
その全リストはこちらのページをご参照下さい。

■SL21B Exhibitor Showcase

2024年6月30日日曜日

【SL21B】 昨晩の SL21B ライブありがとうございました!

昨晩 6月29日(土)22:00 から SL21B の会場で行われた
僕のライブにご来場頂いた皆様、ありがとうございました!
殆ど告知できていないにも拘わらず、たくさんの方々にお越し頂き、
嬉しく、またありがたく感じております。
恐らく前のステージからの流れでいらした海外の方々も
初めて僕のライブを見る皆さんにも喜んで頂けたようで何よりです。

今回は「五行組曲」ということで、テーマの "Elements" に基づき
中国の Elements 思想である五行、即ち木・火・土・金・水を
音楽で表現するという試みでした。
「五行」と敢えて言うと難しいように思われますが、
私たち日本人の慣習や行動様式の中に根付いていて、
まずカレンダーの1週間がそうですし、
例えば今年の干支は「きのえたつ」と言いますが、
これは漢字で書くと「木の兄辰」で、
十二支にこの五行の木・火・土・金・水が
「兄(え)」と「弟(と)」の2つずつ組み合わさることで
60年で一つの周期を成すようになっているわけです。
そう、正にこれは周期で、この順番は、
木は火を、火は土を生み出し、最後に水がまた木を生み出すことで
永遠に循環するようになっているのです。

さて、その五行をテーマにした「五行組曲」ですが、
冒頭に宇宙の始まりビッグバンを置きました。
そして今の宇宙の原型は3分46秒で出来たということなので
曲の長さもそれに合わせて3分46秒にしてあります。w
これはスティーヴン・ワインバーグの名著
『宇宙創成はじめの3分間』からのインスピレーションで、
最初は実際に宇宙が出来上がった時間に合わせて曲を作ろうか
とも思ったのですが、ワインバーグさん書かれている通り
「ふつうの映画のように等しい時間間隔で情景を示」すことは
できないのです。
即ち、宇宙創成は次のような6つのフレームで進んだのですが……

第1フレーム:0.01秒後
第2フレーム:0.11秒後
第3フレーム:1.09秒後
第4フレーム:13.82秒後
第5フレーム:3分2秒〜3分46秒:原子核の形成
第6フレーム:30分40秒後から70万年後:宇宙の膨張

この時間に合わせて音楽の作るのはムリです。www
なので自由なイメージで3分46秒の曲に仕上げました。
爆発の音がする直前「ピ・ポ・パ・ポ・ピ・ポ・パ・ポ」と
ヘンなオッサンのような声が聞こえるのは勿論、
僕のシンセサイザー音楽の原点、冨田勲さんへのオマージュです。

その他、木は上へ上へと垂直に伸びていくのと同時に
横へ横へと水平にも広がっていくイメージ、
火は太鼓の連打、土はティンパニ、金はガムランで表現し、
水は結局ピアノで表現することにしました。
そして最後に木が戻って来るところはオルガンで、という構成です。

それにしても昨晩は2回も落ちてホント申し訳なかったです。
1回目は、何とも SL の動きが変でした。
1曲目始まって、楽器に「座った」ところで、
楽器をタッチするとどのスタイルで演奏するか
アニメをコントロールするダイアログが出るのですが、
そこにあるボタンの1つをクリックした瞬間、
何故か前回ログアウトした場所にテレポした上で落ちたのです。
(ヒロコもマイクの操作をしようとして落ちたと言ってました。)
で、リログしたら今度は動けない。
何と、楽器に座っている状態が続いているのです。
最終的にはステージ脇の草地にもう一度テレポすることで
何とか解消しました。
ケルパさんもコマンドが通らないことがあると仰っていたので
1週間イベントをやってきて、
SIM の状態がかなり重くなっていたのではないかと想像します。
Burn2 のようにリスタートする時間も設けてないようですし。

まぁ、そんなこんなありましたが、会場の皆さんや
演出のケルパさん、中継のしんさんに支えられて
無事ライブを終えることができました。
ここで改めて皆さんに御礼申し上げます。
ありがとうございました。

昨晩いらっしゃれなかった皆さんには
しんさんが中継した動画が未編集の状態で暫くの間は
見ることができるようですので、是非ご覧になって下さい。
(私自身は怖くてまだ見てないのですけれど。w)

■Hiroshi Kumaki Live at SL21B「五行組曲」
・日時:2024年6月29日(土)22:00〜23:00
・会場:SL21B Stonehold Stage
・演出:Kerupa Flow
・YouTube中継:Sin Nagy (Hole Shot Live)


<セットリスト>
1. Happy Birthday Second Life (w/Hiroko Sweetwater)
2. Suite: Wuxing (Five Elements)
  a) Big Bang: First Three Minutes
  b) Wood
  c) Fire
  d) Earth
  e) Metal
  f) Water
  g) Wood (Reprise)
3. ONE (w/Hiroko Sweetwater)