2024年9月8日日曜日

近況報告〜音楽哲学の試み・その1

 ヒロシです。大変ご無沙汰しています。
6月の終わりに SL21B に参加して以来、
7月の初めにこの日記を少し書いただけで、
8月は全く音沙汰ない状態が続いていましたね。
SL にも殆どインしていませんでしたので、
この間僕が何をしていたかについて、
ちょっと長くなるかもしれないけれど、書いてみることにします。

     *   *   *

高校生や大学生の頃、「音楽哲学」なるものについて
友人たちと語り合っていました。
「音楽の哲学」、即ち、「音楽の原理」のことではありません。
音楽という行為そのものが哲学的な問題、
「私たちはどこから来たのか」「自分は何故今ここにいるのか」
「私たちはこの先どこへ向かうのか」、そして究極の質問である
「存在とは何か」を考え、追求することにつながるというものです。
「哲学」と「音楽」という、最も趣味的で
最もお金にならないようなものの組み合わせが僕の中では
解き明かさなければならないものとして心の中にあったのでした。
社会人になってお金にならないものはつまらないもののように言う
周りの影響もあって、こうしたことは長い間忘れていました。
それを思い出させてくれたのが何と、
今年の SL21B だったというわけです。

今年の SL21B のテーマは "Elements" でしたので
自分のライブでは西洋の四大元素ではなく、中国の五行をテーマに
「五行組曲」というシンセサイザーの即興演奏による組曲を
皆さんには披露したわけですが、「元素」を扱うに当たって
やはりその元素が生まれたそもそもの初めである
「宇宙のはじまり」を表現しなければと思い、
冒頭に "Big Bang: First Three Minutes" という曲を置いたのです。
そう、宇宙が3分間でできたのなら、それは音楽にするには
ちょうどよい長さではないか、と。

私たちの住む宇宙が3分間でできたというのは
スティーヴン・ワインバーグが 1977 年に出版した
『宇宙創成はじめの三分間』で一般の人たちに広まりました。
僕もこの本のことは知っていて、昔立ち読みしたことはありますが、
ちゃんとは読んでなかった。
読むべき本のリストには入れていたものの、そのままになってて、
SL21B を機に、今はちくま文庫から出ているので、
仕事の行き帰りに電車の中でちょこちょこ読み始めたら
これがとても面白い!

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大学生の頃から思っているのですが、
アメリカの優れた科学者というのは皆文章がうまい。
ワインバーグのこの本も、難しい話が展開されているにも拘わらず、
各章の最後はクリフハンガーめいて気になる終わり方をするので、
え、え、それでどうなるの? と次の章も続けて読んでしまい、
あっと言う間に読み終えてしまう、という仕掛けになっています。
今更ですが、この本は目から鱗というか、そうだったのかぁ! と、
日本でニュートリノの実験が行われていたり、
その第一人者の小柴昌俊さんや素粒子物理学の南部陽一郎さんが
ノーベル賞を受賞したのが何故なのか、漸くわかってきた次第です。
このお二人にはそれぞれ
『ニュートリノ天体物理学入門 知られざる宇宙の姿を透視する』、
『クォーク 第2版―素粒子物理はどこまで進んできたか』という
何れも講談社のブルーバックスから出ている名著があって、
これも読みかけになっていたのを、ワインバーグの本を読んでから
一気に読み通すことができたのです。
更にはこれらの本で学んだことを確かめようと、
お台場にある科学みらい館に足を運んで一人興奮する始末。w

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無限に広がる大宇宙のはじまりを解き明かすには
目には見えない量子レベルで起こっていることを知る必要がある、
これはとても興味深いことです。
しかも、現代の物理学では、
宇宙が始まった最初の100分の1秒前以前のことはわからない。
とすればその前は何があったのか、何もなかったのか、
或いはまた別の宇宙があったのか?
哲学でも問うてはならないとされる「存在とは何か?」の問いは
ここで物理学という、一見哲学から最も遠い学問のテーマとも
重なっていくのです。
そんなことを考えながら僕はあのビッグバンの曲に
取り組んでいたのでした。

     *   *   *

話は変わって、今年の2月に小澤征爾さんが亡くなりましたが、
その時に書いた日記で、小澤さんが指揮と語りを担当した
「ピーターと狼」や「青少年のための管弦楽入門」を録れた
CD について紹介しました。
その際僕は「あの気さくな語り口で、とても親しみがあっていい」
と書きましたが、そう書きながら僕が思い出していたのが
同じ指揮者のレナード・バーンスタインだったのです。
バーンスタインは1958年から1972年にかけて
Young People's Concerts という子供たちが
クラシック音楽の演奏会に親しめるような企画を行っていて
それが CBS のテレビで放送され、それが DVD にもなってますが、
そこでのバーンスタインの語り口がまた素晴らしいのです。
ブリテンの「青少年のための管弦楽入門」は英語の原題を
The Young Person's Guide to the Orchestra というのですが、
小澤さんのあの語り口と、この曲の原題とが
バーンスタインの Young People's Concerts への連想に
つながったのだと思います。

CBS で放送されたバーンスタインの Young People's Concerts は
全部で53回あって、DVD を揃えるのはとても大変です。
一部は観たことがあるのですが、一度全部観てみたいと思って
調べてみたら、何とちゃんと YouTube に上がっているのですね。


それでちょこちょこ暇を見つけては、というよりは、
半分は仕事感覚で全53回観ましたよ。
第1回の「音楽って何?」から始まり、
第33回の「オーケストラの響き」とか、
僕等が半分当たり前に思っているようなことを
簡単な言葉で改めて整理してくれているのはとても勉強になります。
更に動画だけでなく、各回のスクリプトも公開されていますので、
興味のある方はどうぞ。


で、こういう長いシリーズを観終わると、
終わったことが淋しく、残念なものに思えて
続きはないかと期待したり、探したくなるもの。
それで思い出したのが同じバーンスタインが 1973 年に
ハーバード大学で行った6回の講義「答えのない質問」。
分厚い本になっているのは知っていて、大学の図書館で
パラパラめくってはいたけれども、やはりちゃんと読んでなくて、
あれもビデオになってないかと思って探したら
はい、やはりありましたよ。
そしてこれが超絶面白くて、今書いている「音楽哲学」を
呼び覚ますことになるのですが。。。

     *   *   *

長くなりましたので今日はこの辺で。
こうして本や動画を立て続けに読んだり観たりして
どっぷりその世界にハマって SL はおろそかになっていた
というわけなのです。^^;

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