やはり、この人の作品は通り過ぎるわけにはいかないのだ。
僕にシンセサイザーという楽器と
それが生み出す世界のおもしろさを教えてくれた
この人の作品は、どうしても。
いや、正直、通り過ぎていたのだ。
最近は出すごとに僕らを驚かした
あの一連のシンセサイザーの作品より、
どちらかと言えば生のオケによるものが多かったのではないか。
なので、あまり聞き込む、という感じではなかったのだ。
で、これもオーケストラ作品なのだが、
これまでと違うのは初音ミクが生で共演、というところにある。
冨田さんがミク? と最初は驚きもしたが、
よくよく考えれば、「月の光」の時から、
シンセで人の声を生み出して来た人ではないか。
その冨田さんがミクをどのように料理するだろう?
いかにも電気の塊のシンセから、
自然な響きを生み出してきた冨田さんである。
僕はドキドキしてミクの声が聞こえるのを待った。
と、期待は見事に裏切られた。
誰も彼もこぞってミクを調教して、
人間ぽく歌わせることに血道を上げている中、
冨田さんは敢えてその道はとらずに、
異質な世界のもの、としてミクを使ったのだ。
なるほど、人間ぽいミクなら、ミクを使う理由はない。
僕は落胆からやがて、さすが冨田さん!
と感じ方が変わっていった。
混声合唱や少年少女の合唱に
異星人のミクが絡んでこそこの作品なのだ!
そして!
ミクのことばかり書いてしまったが、
結局のところ、最初から最後まで
どこまでもトミタ・サウンドが空間を満たす。
僕にとっては、心の底にあるなつかしい響き。
それでいて、どこまでも新しい音の実験をする冨田さん。
この人は本当にすごい、いつまでもこうして新しいものに挑戦し続ける
そんな人間でありたいと思うヒロシなのでした。
■イーハトーヴ交響曲
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