今年のバーニング・マンのアートテーマは「平行宇宙」でした。
そして、8月末のイベントに引き続き、セカンドライフ内でも
10月9日(金)から同じ「平行宇宙」をテーマに
Burn2 の本イベントが開催される予定です。
「平行宇宙」は量子力学から導かれる当然の帰結とも言えるもので
非常に魅力的なテーマであると感じています。
アマゾンが制作したフィリップ・K・ディック原作の「高い城の男」も、
原作を大きく越えてこの平行宇宙を扱うスケールの大きなドラマに
仕上がっていたのが記憶に新しいですね。
そんな時期に、クリストファー・ノーラン監督の最新作
「TENET」が公開されたので早速 IMAX で観て来ましたよ。^^
今年の夏頃この映画の公開が延期されたニュースが出ていて、
その時は「何それ?」とあまりよくわからなかったのだけれども、
予告編を見て思い出しました。
今年の2月に「CATS」を観に行った時に、本編に先立って
10分近いオペラ劇場襲撃のシーンがそのまま予告として流れて、
とんでもない緊張感に「何だ? この映画は?」と思ってましたが、
「TENET」の予告編を見て、あれ? これ見たことがある?
そうだ! あの時見たやつだ! と思い出してから
急に興味が湧いて来て、早速観に行った、という次第なのです。w
で、ネットで事前に情報を取ろうと検索をかけてみると
やたらと難解だとネタバレだのといった記事がいろいろ出てたので、
本当にそんなに難解なのだろうか、と敢えて解説記事は読まずに
まっさらな、何も先入観のない状態で観に行くことにしました。
結果、超おもしろかったですよ。w
主人公と一緒に、何が起こっているのかの謎解き要素はあるものの
「難解」というほどではないのではないかと思いました。
寧ろ、劇場で観る映画というもののおもしろさがいっぱい詰まった
そんな作品のように思えました。
「難解」というのであれば、僕にとってそのように感じたのは、
後にも先にも例の「2001年宇宙の旅」くらいです。
あれは友達と二人で観に行って、終わってから劇場を出て、
しばらく二人とも黙ってましたが、僕が最初に口にしたのが
「何だったんだ? あれは?」でした。w
今なら、もしあの映画を初めて見た人から同じ質問を受けたら
僕はこう答えるでしょう。
「Don't try to understand it. Feel it.」
(頭で理解しようとしないで、ただ感じるのよ。)
「TENET」に出て来る台詞ですが、
正に「TENET」もそういう映画だと言えるでしょう。
映画を観終わって感じたのは、この映画の背景に
「熱力学の第二法則」と「量子力学」の存在があるということです。
この2つを知らないと難解と感じられるのかもしれません。
子供の頃、こんな話を聞いたことがあります。
問1:シェイクスピアを読んだことがありますか?
問2:熱力学の第二法則を知っていますか?
この2つは「等価」な質問なのだそうで、
人の知識というのがある方向に偏りがちなことを示す例なのだとか。
文系の人ならシェイクスピアと言えば誰でも
イギリスの戯曲作家であることくらいは知っていて
「ロミオとジュリエット」とか「マクベス」といった
作品の名前も一緒にイメージできるかもしれません。
が、一方の熱力学の第二法則の方は凍り付く方もいらっしゃるかも。
しかし、理系の方なら、これがエネルギーが高いところから
低いところへと移動する不可逆変化のことを表していることは
ごく常識的にご存じのことと思います。
そう、もう文系とか理系とか言わないで、
これくらいのことは常識的に知っておく必要がある、
ということですね。
この熱力学の第二法則はより一般的には
「エントロピー増大の法則」として知られています。
映画では、このエントロピーを減少させる話が出ていました。
「TENET」は、時間の逆行というテーマを扱っていますが、
そもそも時間というのはこのエントロピーが増大する方向の変化を
我々がそのように感じているのではないか? ということです。
そのように考えれば、エントロピーを減少させることができれば
それは時間が逆戻りしているように感じられる。。。
或いは、主人公とニールの会話の中で
「陽電子は時間を逆行する」という話が出て来ますが、
これも、エントロピーが増大している分子の動きの中で、
電子と同じ数だけ存在する陽電子は、電子とは逆方向に動くので、
陽電子を追いかければ時間が逆行しているように感じられる、
そういうことかと僕は理解しました。
陽電子と電子は常に対になっています。
主人公が「窓の向こうに自分の姿が見えなければ
回転扉を通ってはいけない、戻れなくなるから」と忠告を受けるのは
実は順方向の世界で生きている自分と
逆方向の世界で生きている自分もまた一対になっているわけで、
回転扉を通るというのは電子の自分と陽電子の自分が入れ替わる
ということであると考えられるのです。
熱力学の第二法則についてはそんなところかな。
もう一つの量子力学については、次の2つの台詞が
キーワードとして何度も出て来るのが気になりました。
「What’s happened happened.」
⇒ 起こったことは起こったんだ。
「Ignorance is our ammunition.」
⇒ 知らないということが最大の武器だ。
量子力学の話で、僕らに最も馴染みがあるのが
「シュレディンガーの猫」の話でしょう。
外からは中が見えない箱に猫と、毒を発生させる装置を入れておくと
ある瞬間に猫が生きているか死んでいるかは50%の確率で、
蓋をとって我々が猫の状態を確認した瞬間に
猫が生きているか死んでいるかが決定される。
言い換えると、我々が見るまでは、猫は生きていて死んでいる
両方の状態で存在している、というものです。
「知らないということが最大の武器」ということは、
猫を入れた箱を空けないまま戦っているようなものです。
つまり、知らないからこそ未来をどちらの状態にも導ける。
しかし、僕らはその知らない状態で瞬間瞬間選択に迫られていて、
自分が行った選択によって未来はある方向に決まって来る。
それが「起こったことは起こった」ということで、
もう一つの別の選択を行った場合の世界には行けないということです。
どうもそれがニールの言う「未来の人たち」が
「祖父殺しのパラドクス」を信じていない根拠となっているようです。
その意味で、この2つの台詞は1つのセットになって
この映画のプロットを支えているように思うのです。
量子力学については、量子の重ね合わせ状態という
「生きていて死んでる猫」みたいな量子の振る舞いを利用した
量子コンピュータなるものが実用化されつつあって
僕らの日常に入り込もうとしてきているので、
これもまた常識的に概要くらいは知っておく必要がありますね。
まぁ、こうした物理学的な背景がありながら、
ノーラン監督はそれをおもしろい形で映像にしてくれています。
逆回しの映像も不思議でおもしろいですが、
音楽好きの方には BGM など背景の音にも耳を澄まして頂ければ。
あちこちでいろんな音が逆回転、つまり録音したのと
反対方向で再生された音に溢れていますよ。w
そんなところも僕的には楽しめたあっという間の150分でした!^^
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