2024年1月3日水曜日

【レビュー】 シリア映画『ダマスカス…アレッポ』

先週、と言ってももう昨年となった12月25日のクリスマスの日
NPO 高麗主催で渋谷の東京ウィメンズプラザで行われた
「シリア上映会&いだきしんコンサート」に参加しました。
NPO 高麗は継続的にシリアへの支援を行っており、
イベントはムハンマド・ナジーブ・エルジー・シリア大使夫妻が
臨席して行われ、「ダマスカス…アレッポ」と
「ナツメヤシの血」という2本のシリア映画を観たあと
いだきしんさんによるピアノの即興演奏が行われました。
大使は破壊されたシリアはフェニックスの住むと言われる地、
フェニックスが灰の中から蘇るように、
シリアも必ず復興する、と力強く述べられ、
いだきしんさんの演奏もフェニックスを表現したものでした。

2本の映画は同じく昨年の10月6日〜13日にわたって
東京外国語大学建学150周年記念事業の一環として行われた
「シリア文化週間」でも上演されたもので、
字幕も東京外国語大学メディア情報センターによるものでした。
かつてイラン映画にハマって、その他の中東の映画を観ていた私も
シリアの映画を観るのはこれが初めてでした。
2本の映画、何れも深く考えさせられるものがありましたが、
今回はそのうちの1本、「ダマスカス…アレッポ」について
書いてみます。

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この映画は2018年、バシル・エル・ハティブ監督の作品で、
同年10月に行われたアレクサンドリア国際映画祭(AIFF)の
オープニングで上映され、最優秀アラブ映画賞を受賞したという
アラブ世界ではかなり話題になった作品です。
にも拘わらず、Web 上では日本語の記事を見つけることが
できませんでした。
この作品について知りたいという方いらっしゃいましったら、
英語のタイトル "Damascus...Aleppo" か、
アラビア語の原題 دمشق حلب をラテン文字にした 
"Damashq Halab" で検索してみて下さい。
(そう、ダマスカスはアラビア語では「ダマシュク」、
 アレッポは「ハラブ」と言うのです。)

映画は、主人公のイーサー・アブドゥッラーが、
首を縊って自殺しようとする友人を止めに来るところから始まります。
友人は言います。自分の周りの人はみんな死んでしまった、
自分にはもう生きている意味はないのだと。
これにイーサーは、人は自分のだめだけに生きているのではない
自分が生きていることが他の誰かのためになっているのだと。

友人の自殺を止めた次の日、姪のエバが婚約の報告に来ます。
翌日結婚式を挙げるとのことで、イーサーは、
亡きエバの両親に代わって必ず同席すると約束し、
更に仲のよい友人二人にも出席するよう頼むのです。

結婚式当日、イーサーは結婚式に先立って
アレッポで行方不明になった娘ディーナの夫の捜索を
警察に依頼するのですが、警察から結婚式会場の裁判所に行く途中
渋滞に巻き込まれてしまい、約束の時間に遅れてしまいます。
そして、彼が裁判所に着き、会場へ向かおうとしたその瞬間、
裁判所がテロにより爆破されてしまうのです。

この突然の爆破シーンにはショックを受けました。
そう、イーサーは愛する姪と親しい友人を二人も
この時に失うことになってしまうのです。
墓参りのあと今度はイーサーが自分は何故生きているのか、
と自殺しようとした友人に問うのです。
友人は他の誰かのため、とイーサーから言われた言葉を
そのまま返すのです。

イーサーには、アレッポに住む娘のディーナとその子供達がいる。
イーサーはバスに乗ってアレッポの娘を訪れることを決めます。
ダマスカスからアレッポまでは幹線道路で約400キロですから
大体4時間くらいの道のりでしょうか。
バスには様々な背景を持った人たちが乗ってきます。
皆、何とか今日中にアレッポに着きたいと願い人たち。
一人一人、他の乗客に好意を抱いたり、
その反対に嫌なヤツだな、と思ったりする中
バスはアレッポに向かって出発します。

ところがまぁ、その道中、いろいろなできごとが起こり、
バスの進行は妨げられるのです。
その度に、これは悲劇につながるのではないか、と
ハラハラさせられるのです。
というのも映画が突然の爆破のシーンで始まったからです。

ネタバレになるので個々の事件の細かい話は省きますが、
結局バスはアレッポに到着し、イーサーは娘の家に向かいます。
ところが、娘の住むアパートの周りに IS が地雷を仕掛けたと
国軍によってアパートは封鎖されてしまっているのです。
イーサーはここまで来て娘に会わずに帰れるものか、と
地雷が埋まっているかもしれない中を
娘の方に向かって一歩一歩歩き始めるのです……。

ポスターの写真はこのシーンのものですね。
これもネタバレになるので結末は書きませんが、
このシーン、とっても感動的でした。
人の生き死には人間が自分で決めるものではない、
全て神の御心次第(インシャラー)なのだ。
仮令死ぬかもしれないと思っていっても、
人は一歩一歩、自分のなすべきことに向かって
歩みを続けなければならないのだ、と。

ご興味を持って頂いた方の為に、YouTube に上がっている
予告編の動画をシェアしておきます。英語の字幕です。


あと、英語を含めて、キャストの情報が少ないので
この映画のアラビア語の Wiki ページで取得した情報を元に、
わかっている範囲で記載しておきます。

■映画「ダマスカス…アレッポ」(2018年)
 ・監督:バシル・エル・ハティブ
 ・出演:ドゥレイド・ラハーム(イーサー・アブドゥッラー)
     キンダ・ハンナ(ディーナ:イーサーの娘)
     サルマ・アル・マサリ(フダー:イーサーの憧れの人)
     サバー・アル・ジャザイェリ(ラファー:イーサーと心を通わす女性)
     アブデル・モネイム・アマイリ(ジャラール:若いDJ)
     ビラール・マルティーニ(ワリド:ディーナのアパートを守る兵士)

クリスマスの日にキリスト教世界の映画でなく
イスラーム教の中東の映画を観るというのも不思議な感じがしますが、
因みに主人公の名「イーサー」はアラビア語で「イエス」のこと。
やはりこの日に観たということは偶然ではないのかもしれません。

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