指揮者の小澤征爾さんが亡くなられた。
ここ数年はあまり体調が優れないようにお見受けしていたが、
もう小澤さんが指揮する姿を見られなくなるのは残念なことだ。
それは、小澤さんは世界的に有名な指揮者の中でも
僕にとってはヒーローだったからだ。
実は、つい最近あることがあって急に思い出し、
武満徹さんの「カトレーン」と「鳥は星の庭に降りる」を
タッシやボストン響を指揮して収めたCD を買って
ここ数日聴いていたばかりなのだ。
僕が小澤さんのことを知ったのは中学1年生の冬だったと思う。
冬休みに入る前の音楽の授業で、先生は夏休みや冬休みには
クラシックの曲の鑑賞文の宿題を出すのだが、
この時は宿題の曲を指定したのだ。
「皆さんにはこの冬休みに是非聴いてほしい曲があります。
ベートーヴェンの『第九交響曲』です。
テレビやラジオでたくさん流れると思うので
是非聴いてみて下さい。」
その場で先生が紹介したのか、それとも
自分で新聞のテレビ欄をチェックしていて見つけたのか忘れたが、
小澤征爾さんが手勢の新日本フィルを率いて演奏する
『第九』の演奏会と、そのゲネプロの様子を追いかけた
ドキュメンタリーの2部構成の番組があったのだ。
演奏会は、この時初めて第九を聴いてとても感動したのだが、
面白かったのはドキュメンタリーの部分で、
指揮者というと何だかとっても偉い人のような感じなのに、
インタビューを見ているととても気さくな感じの喋りで、
ゲネプロでは全身を震って指揮するその情熱的な姿に魅せられた。
第1楽章の再現部の手前、全ての楽器が力強く雪崩れ込んで来る、
その部分を思い切り棒を振りながら自ら歌うのだ。
この時の小澤さんの声は今でも僕の耳には聞こえるようだ。
凄い人だと思った。そして面白い人だと思った。
それから小澤さんが出て来るテレビ番組は
必ずチェックするようになったのだ。
今僕の iPhone に入っている小澤さんの指揮になる音楽は、
最初に書いた武満徹さんのものやメシアンのもの、
それからレスピーギのものなどがあるが、
案外面白いと思っているのが小澤さんがナレーションをしている
「ピーターと狼」、「動物の謝肉祭」、
そして「青少年のための管弦楽入門」を収めた CD だ。
小澤さんが指揮している管弦楽曲は普通に聴くけれども、
声が入っているものは貴重だと思う。
それも、あの気さくな語り口で、とても親しみがあっていいのだ。
これら3つの曲は何れもオーケストラの楽器紹介のためのもので、
ベンジャミン・ブリテンの「青少年のための管弦楽入門」は
LP 時代はマルケヴィッチの指揮、栗原小巻さんのナレーションで
聴いていましたが、小澤さんのは出だしからちょっと面白い。
「オーケストラの演奏を生で聴いたことがあるかな?
もう何回も聴いたことがある、っていう人もいるだろうし、
オレはまだ一度も聴いたことがない、なんていう人もいるかもね。
ラジオやレコードで聴くのも勿論いいんだけども、
生のコンサートで聴くと、
オーケストラにはいろんな楽器があるってことがわかって
なかなか面白いんだよ。
じゃあこれからオーケストラにはどんな楽器があるのかを
わかりやすく紹介した曲を聴いて下さい。
イギリスのベンジャミン・ブリッテンという人が書いた
『青少年のための管弦楽入門』、難しい名前だけども、
まぁ、要するに
君たちのためにオーケストラをご案内しましょう!
という曲です。」
何だか楽しいことが始まる感じがしませんか?
この CD に入っている曲は何れも入門向けの曲で
管弦楽法とか勉強している自分には今更の内容だけれども、
この小澤さんの喋りが好きで何度も聴き返しています。
そう、きっと小澤さんが指揮した音楽の CD は
きっとこれからもずっと聴き続けていくことでしょう。
素晴らしい音楽の贈り物をありがとうございます。
今はただご冥福をお祈りします。
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