2024年3月30日土曜日

【レビュー記事】 小澤征爾さんを聴く〜その1・サイトウ・キネンのベートヴェン『第九』

RL でいろいろなことがあってこの日記も随分間が空いてしまった。
最後に書いたのがパイプオルガンのプラグインに関する記事で、
その前は小澤征爾さんの追悼記事だった。
前にも書いたが小澤征爾さんはずっと僕の中ではヒーローだったので
やはり旅立たれたことはとても残念でならない。
そこで何枚か手許にある小澤さんが指揮したディスクを聴きながら
つらつら心の中に浮かんで来ることなどを書いて行ってみようと思う。

まず最初に、僕が小澤さんのことを知るきっかけになったのが
ベートーヴェンの『第九』だったし、
皆さんもご存じのように僕は毎年『第九』に関わっているので
この辺りから書いて行ってみよう。

小澤さんはこのベートーヴェンの『第九』を
確か3回録音しているはずだ。即ち、

・1974年録音、ニュー・フィルハーモニア管(Philips)
・2002年録音、サイトウ・キネン・オーケストラ(Philips)
・2017年録音、水戸室内管(Decca)

1974年のニュー・フィルハーモニア盤が、
僕が初めて小澤さんの指揮を観た時に時期的には近いので
いつか聴いてみたいと思ってはいるけれども、
今回は手許にあるサイトウ・キネン盤について書いてみる。
これは、何と50万枚以上売れたという、
クラシックの CD としては驚異的なベストセラーになったものだ。

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結論から言ってしまうと、なかなか標準的な第九演奏と言える。
演奏時間は CD 全体で 69分、楽章と楽章の間を除いた
本体の演奏時間は 67分21秒なのでやや速いかもしれない。
2002年、元旦のウィーン・フィルのニューイヤーコンサートに登場、
同年にウィーン国立歌劇場の音楽監督に就任したその小澤さんが
同じ年のサイトウ・キネンフェスティバル松本で振った時の
ライブ録音ということで、サイトウ・キネンらしい
分厚いストリングスが醸し出す熱く緊張感に溢れた演奏だ。
前に書いた第1楽章再現部の手前、雪崩れ込むような感じの部分、
子供の頃の僕に印象深く刻まれたあの感じは
今この演奏にも生きているようだ。

今「標準的な演奏」と書いたが、実は標準的でないところがある。
第2楽章だ。
普段は第3楽章に置くスケルツォをベートーヴェンはこの曲では
第2楽章に置いて、反対に通常は第2楽章に置く緩徐楽章を
3番目に持って来た。
そしてこの第2楽章のスケルツォには問題があって、
388章節目から399章節目にかけて
1番かっこの繰り返し記号がある。
20世紀の『第九』演奏のスタンダードを築いたと言われる
ヴァインガルトナーはこの繰り返しをしないよう指示したとか。
なので、僕がいつも聴いて参考にしている
フルトヴェングラー指揮バイロイト祝祭管の演奏でも
ここは繰り返さずに最初から2番かっこに飛んでいる。
そのことを知ってか知らずか忘れてしまったが、
かつて横浜マーチングバンドで『第九』の全曲演奏をやった時は
僕もこの1番かっこは飛ばして演奏している。
ところが、小澤さんのこの録音では
1番かっこをちゃんと演奏して繰り返しているのだ。

繰り返す場合と繰り返さない場合は指揮者のテンポにもよるが
3〜4分くらい演奏時間に差が出て来ると思う。
調べて見ると第2楽章の演奏時間はフルトヴェングラーが11分52秒、
バーンスタイン指揮ウィーンフィルが11分11秒、
ご参考までヒロシの YMB 版が11分41秒なのに対して
小澤さんのは13分27秒だ。
つまり、繰り返してこの差ということは結構速い演奏と言える。

速いと感じるのは第3楽章もそうだ。
これは僕がベートーヴェンが書いた最も美しい音楽と思っているが、
フルトヴェングラーのあの眠くなりそうなくらいゆったりとした
テンポの演奏が好きなのである。
天上の音楽。
そう思ってこれも演奏時間を調べてみたら、
フルトヴェングラーが19分27秒、僕のは更に遅くて19分46秒。
だから14分1秒の小澤さんのは、それは速く感じるよね。w

そして第4楽章。
ここで僕がその演奏の特徴を見極めるのが、1つには
Allegro assai の94章節目、「歓喜に寄す」の大合唱が、
"vor Gott(神の前に)" とフェルマータの付いた全音符になり、
次の小節からは Alla Marcia と書かれたマーチになる所だ。
初めて『第九』を聴いた時はこの部分でゾクっとした。
このえも言われぬ恍惚とした感動を覚えるには、
"Gott" のフェルマータをどれだけ延ばすか、
そしてマーチを開始するまでにどれだけ間を取るか、なのである。
因みにフルトヴェングラーのバイロイト盤ではどちらも8秒。
僕もフルトヴェングラー目指して延ばしてみたが、
フェルマータが6秒、その後の間が4秒で、
小澤さんのサイトウ・キネン盤ではそれぞれ6秒、3秒だ。
僕がこの演奏を良い演奏と感じるのはこういう所にもあるかも。

もう1つ、僕が必ずチェックするのが、最後のエンディング、
"Prestissimo" と書かれた部分のテンポだ。
これは「極めて速く、この上なく速く」という意味なので、
とっても速く弾かなければならないのだけれど、
この前にこの標語が出て来る所には BPM = 264 の指定があるので
もう、メチャメチャ速く弾く必要があるわけだ。
で、これをやっているのがフルトヴェングラーで
バーンスタインもウィーン・フィルとの全集版で速く弾いている。
フルトヴェングラーに至っては、もうオケが付いて来れなくて
音がズレまくったりしてるけれど、
それだけに終わった時の感動が凄いのだ。
で、僕も YMB の『第九』演奏会ではそれを真似てやってます。w
一方、この小澤さんのはそこまで速くなくて、
まぁ、現実的にはこの位で、多分僕が子供の頃観た時も
この位のテンポだったんじゃないかと思う。

というわけで、いろいろ書いたけれども、
全体としては小澤さんの熱気が伝わる聴きやすい演奏だ。
どうしてもフルトヴェングラーで聴くことが多いのだけれども、
この演奏ももっと聴いてみようかな。
次回はサイトウ・キネンのブラームスについて書きます。

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