2021年1月17日日曜日

【RL】 ヴァーグナー、ブルックナー、マーラー(2)

 もう少し「ライトモチーフ」の話をします。

「モチーフ」というのは日本語で言うと「動機」のことです。
動機で恐らく一番有名なのは「ジャジャジャジャ〜ン」という
ベートーヴェンの「運命の動機」でしょう。
その動機が現れる交響曲第五番の第1楽章は、
この激しいく緊迫感のある運命の動機を第1主題に、
それとは対照的な、4分音符がゆったりと並ぶ
優しい感じの第2主題を軸にして、それも殆どこの2つの音型だけで
曲が成り立っているという、典型的な例となっています。

・ベートーヴェン『交響曲第五番』第1楽章の第1主題と第2主題
210117a

交響曲というジャンルの音楽は、大体このように
対照的な2つの主題、或いは音型=動機がいろいろと形を変え
或いは互いに絡み合いながら展開していくことで成立しています。
しかし、これは交響曲という音楽が器楽曲であるための形式であって、
総合芸術を目指すヴァーグナーには向かなかったのだろうと思います。
彼の楽劇にとっては、音楽はあくまでも主人公の心理状態や
その場の状況、自然環境などを観客に伝える手段の1つであった、
そう私は考えるのです。
「ライトモチーフ」というドイツ語は強いて英語に訳すと
"leading motive" ということになり、
日本語では「示導動機」と訳されているのもその理由からです。

そこで、ヴァーグナーそのものでなくて、
またまた「スターウォーズ」からの引用になりますが、
「レイア姫のテーマ」と呼ばれているライトモチーフがあります。
このライトモチーフはメインタイトルの中にも含まれていますが、
レイア姫が登場するシーンは勿論、レイア姫の名前が出るところでも
必ずと言っていいほど流れるメロディなのです。

・レイア姫のテーマ
210117b

この動機が一番最初に現れるのは、レイア姫の乗った船に
ダースベイダーが乗り込んで来た後、
姫が R2-D2 に何やらカードのようなものを差し込んでいる
あのシーンなのです。
ところで、このシーンが面白いのは、最初に映るのは
そのカードを差し込む手だけ。
そこへ R2-D2 を探す C-3PO が映し出されます。
ここで流れている音楽は、
実は私の好きなスカイウォーカーの動機なんです。
そして画面が切り替わってレイアが映し出されると
レイア姫のテーマに音楽が移っていくのです。
これはつまり、レイアの取っているこの行動が
スカイウォーカーであるルークとレイアの出会いを暗示する、
そういう役割を音楽が示しているわけです。

次にこの動機が現れるのは、R2-D2 と C-3PO を買ったルークが
その R2-D2 を整備している時にレイアのホログラムが現れるシーン。
ホログラムが現れた瞬間は不穏な音楽が流れます。
何か普通ではないことが起こったことが暗示されるのです。
そして、ルークが、「きれいな人だ、一体誰だろう?」と言い、
C-3PO が「さぁ、私もよくわかりません」ととぼけるその瞬間、
音楽はレイア姫の動機に切り替わり、
丁度これがルークの質問に対する答えになっている、というわけです。
こういうのがライトモチーフによる音楽の作り方です。

で、話をヴァーグナーに戻します。
(本当はマーラーの話をしてるわけなのだけれど。w)

そういうわけで、ヴァーグナーの音楽はあくまでも劇に沿ったもの、
そこには交響曲で言うような形式は全く考慮されていないわけです。
そこで、ヴァーグナーの楽劇には素晴らしい音楽は
いろいろとあるわけなんですが、それは3時間も4時間も続く楽劇を
じっと聴いているわけにもいかず、一部が演奏会形式で演奏されたり、
CD だとハイライトという形でもっと楽に楽しめるように
なっているのが現実的なところです。

このヴァーグナーの音楽の響きを素晴らしいと感じ、
それを劇からは独立した器楽曲として成立させようとしたのが
ブルックナーではないか、と私は考えます。
実際、ブルックナーの交響曲はヴァーグナー的響きに満ちています。
しかも、ベートーヴェン的な古典的展開をするので、
音楽の方向がはっきりしていて多少長くてもあまり飽きない。
なので、1980年代頃だと思いますが、日本のクラシック界で
ブルックナーとマーラーがブームになった時期がありますが、
私自身はブルックナーの方に共感していました。
そこからマーラーに行くのであれば、
寧ろ当時ソ連の作曲家だったショスタコーヴィチの方が面白い、
そんな風に感じてました。

ヴァーグナーの楽劇の舞台は古代であることが多いですが、
あの金管や弦の響きには、ドイツを含めた意味での北欧の
森を思わせるものがあると感じています。
それは、妖精や巨人や神々たちのいる森の響きです。
そして、同じ森の響きを私はブルックナーに感じるのです。

そのブルックナーを先生にしたのが今のチェコに当たる
ボヘミアで生まれたマーラーということになるのですが、
この人もブルックナーと同様交響曲が代表作でありながら、
その交響曲のあり方は師匠とは全く異なる方向だった、
ということになるでしょうか。

はい。
やっと本題であるマーラーに辿り着きました。
が、この続きはまた次回。^^;

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