2009年5月13日水曜日

【レビュー】『流れよわが涙、と警官は言った』

セカンドライフ6周年記念のイベント
「SL6B」の紹介文に
「6はP・K・ディックの小説に出てくる超人のことだ」
というのがあり、え、何だっけ、
と思ったのが読むきっかけ。
ディックの小説は勿論いつくか読んでるけれど、
思い出せない。
すぐに、気になりながらも例によって
あまりロマンチックでないタイトルで、
ずっと読まないでいたこの本のことだとわかった。

フィリップ・K・ディック『流れよわが涙、と警官は言った』(ハヤカワ文庫SF)
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しかし、意識的に避けているものというのは、
えてして自分の感性や感覚に近かったり
自分にとって必要だからだったりする。
最初のページを繰った時から、おもしろくておもしろくて
あっという間に読み切ってしまった。

全世界3,000万人以上の人が見る
テレビショーのホストであり歌手である
ジェイソン・タヴァナーが主人公。
超有名人であり、そして政府の優生学的実験の産物である
「シックス」と呼ばれる超人の一人だ。
ある日の番組終了後、
ガールフレンドの一人を訪れた彼は、
そのガールフレンドに殺されそうになる。
気を失った彼が目が覚めたのはどこかの安ホテルの一室。
そしてそこでは、
誰一人として彼のことを知る人はいない、
彼の弁護士もマネージャーも、そして彼女すら。。。
出生証明を取り寄せようとした彼は
そんな人間は生まれておらず、
存在していないことを知らされる。。。
一体、何がどうなっているのか?

ディックお得意の
自分の存在の危うさをテーマとしたものだが、
興味深いのは普通の人間でありながらジェイソンに対して
自分を更に能力のある「セヴン」だと思わせる
もう一人の主人公、バックマン警察本部長との対比だ。
ジェイソンの苦悩ではじまるこの物語は
バックマンの苦悩で終わる。
自分とは、そして存在とは、生きるとは、
一体何なのだろうか?

タイトルにある「流れよわが涙(Flow My Tears)」は、
シェイクスピアと同じ時代のイギリスの作曲家
ジョン・ダウランドのリュート歌曲のタイトルだ。
ギターの弾き語りのはしりのような、趣味のいい曲。

本書を読み終えた後、
僕は久しぶりにこの曲を聴きたくなった。
それもいくつかある中で、この曲を世界的に広めた
アルフレッド・デラーの歌で。
CDを棚から引き出した僕はあっと驚いた。
そう、デラーのバンドの名前は、そう、
コンソート・オブ・シックスだった!


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